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公開日:2022/10/17

変更日:2024/01/23

東京海上ホールディングスに学ぶ、パーパス経営を実現させるD&I推進の取り組みと戦略

初めに

日本も含めて世界経済の先行き予測が難しくなっている昨今、「パーパス経営」という言葉がにわかに注目され始めています。しかし、パーパス経営の必要性は認めているものの、多くの企業は実践に関してまだまだ手探り状態というのが現状ではないでしょうか。

今回は、東京海上ホールディングスで「お客様や地域社会の“いざ”をお守りすること」をパーパスとし「ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)」に取り組まれている同社執行役員人事部長 鍋嶋様と、プロフェッショナル人材の採用において多くの企業を支援してきたクリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)執行役員 渡辺の対談企画を実施。パーパス経営を推進するにあたり、人事部門にはどのようなことが求められ、どのようなことに取り組むべきか語り合っていただきました。(以下:敬称略)

プロフィール

鍋嶋 美佳氏
東京海上ホールディングス株式会社
執行役員人事部長 Group Chief D&I Officer
1991年東京海上火災保険株式会社(現・東京海上日動火災保険株式会社)入社、企業損害企画部に配属。以降、95年東京損害サービス部、2000年神戸、03年から7年間ロサンゼルス・ニューヨークに駐在、10年に帰国しコマーシャル損害部、14年埼玉損害サービス部、17年米国現地法人のシニアバイスプレジデントと、一貫して損害サービス畑を歩み、事故発生後の問題解決や事故の予防・再発防止に取り組んできた。19年東京海上ホールディングス人事部長、21年4月より現職。

渡辺 和宏
株式会社クリーク・アンド・リバー社 執行役員
プロフェッショナル・プロデュース・グループ2002年株式会社クリーク・アンド・リバー社入社。映像分野で活躍するクリエイター派遣および制作業務受託の営業に従事。その後2005年から人材紹介事業を担当。

グループ全体の人材をどう活用し、育成していくかをD&Iを通じて実践

渡辺
まずは簡単に自己紹介からさせていただきます。
私は2002年の入社以来、クリエイティブ・プロフェッショナル人材のために、最も輝ける環境で仕事をしてもらうための転職支援、独立支援に携わってきました。

C&R社は、当初デザイナーなどクリエイター専門の派遣および人材紹介エージェンシーでしたが、現在はIT系エンジニアや医師、建築士、会計士といったプロフェッショナル人材についてもご支援しています。私自身はクリエイティブ・プロフェッショナル人材と料理人、CXOと称される経営人材の転職支援チームの責任者をしています。
鍋嶋さんはどういった経緯で現在に至っていらっしゃるのでしょう?

鍋嶋
1991年に新卒で東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)に入社しました。最初の配属が損害サービス部門で、2019年に東京海上ホールディングスの人事部長を拝命するまで損害サービス一筋でした。

総合職採用で長いキャリアのなか、何度か転勤も経験しました。最初の転勤は神戸、12年目に米国初の女性駐在員としてニューヨークに赴任し、横移動でロサンゼルス、東京に戻ってきて、その後埼玉、そして17年に再びニューヨークに赴任し、19年に東京に戻り東京海上ホールディングスの人事部長、21年に同社執行役員、グループダイバーシティ&インクルージョン総括を拝命し今に至っています。

渡辺
これまで多くの転勤をされているかと思いますが、ご家族はどうされていたのでしょうか?

鍋嶋
すべて家族帯同です。まだまだ女性が育児をしながら転勤することは少ない時代でしたけれど、当社には育児休業も含めてライフイベントに対する両立支援の制度が整いつつある時代で、なんとか仕事と両立しながらキャリアを積み上げることができましたね。

渡辺
素晴らしいですね。損害サービスというのはどのような仕事なのですか?

鍋嶋
災害や事故が起きたときに、お客様とともに原因究明や被害復旧、再発防止や損害軽減などの解決にあたり、損害保険金をお届けする仕事です。また、訴訟社会といわれるアメリカではPL(製造物責任)法が厳しく適用されますので、現地の日本法人が訴訟に巻き込まれたときに日本の法律制度とどのように違うのか、裁判の手順はこうで、こういう書類が必要で、法廷での証人喚問ではこういった対応をするといった訴訟戦略や戦術のアドバイスまでフルサポートしていました。

渡辺
なるほど。個人レベルだと交通事故の損害賠償などが身近な“いざ”になりますね。
ところで、新卒の就活時から損害保険サービスに興味があったのですか?また、現在は人事部ですが人材採用も担当されているのですか?

鍋嶋
大学で政治学や国際関係を学び、日米関係やグローバルなカントリーリスクといったことを研究していたので、そういったリスクの分野には興味がありましたけれど、実のところ損害保険のことはあまりよく知りませんでした。(笑)
東京海上火災保険に決めたのは、フランクな社風で新人の意見でもちゃんと聞いてくれる風土があることと、新しいことにどんどんチャレンジしているところに惹かれました。

東京海上ホールディングス執行役員人事部長・鍋嶋氏

人材採用に関しては、東京海上ホールディングスのキャリア採用の面接は行いますが、国内外を含めてグループ各社それぞれに人事部門があり、新卒・キャリア採用はローカルで行っています。私はホールディングスの立場で、国内外のグループの人材をいかにグローバルに活用していくか、グループ全体の人材をどう育成していくか、駐在員の安全対策やウェルネス推進、そしてD&Iの取り組みを担当しています。

D&Iの取り組みで社員のパーパスへの理解・納得を浸透させ、 さらに個人、組織、会社を成長させる好循環をつくる

渡辺
そのD&Iの取り組みがパーパス経営の実現、または浸透につながっていくと捉えてよいのでしょうか?我々人材エージェンシーとして転職・採用支援を行っていますが、『パーパス』という単語は最近バズワードのように取り沙汰されています。
でも単純に訳せば『存在意義・存在価値』なわけで、それは単語としては違いますがどの会社も元々もっている『ミッション・ビジョン・バリュー』『企業理念』『社是』などと同義なのかなというのが実感です。今日は、鍋嶋さんにD&Iの取り組みとパーパス経営の実現をどう紐づけていらっしゃるのか、お聞きし勉強したいと思っています。

鍋嶋
そうですね。私たちのパーパスは『お客様や地域社会の“いざ”をお守りすること』ですが、以前から「私たちの会社は何のために存在しているのか」を示すために「“いざ”を守る」ということを言い続けてきました。そういう意味では企業理念や社是と置き換えても通じるものだと思いますね。

大切なのは、パーパス=存在意義をしっかり定義し言語化して、全グループ社員が腹落ちするまで理解することです。グループには多様な人が集まっていますから、そこに共通な軸がないと何のために仕事をしているのか分からなくなってしまいます。

D&Iも、ただいろいろな人を集めて多様性だと言い、チームで一緒に頑張っていこうね、包括したよ、ということではないと思います。一人ひとりが自分らしく自分のなりたい姿に向かっていける環境があり、それが会社の向かうベクトル、パーパスに合致していることがベストの目指す姿なんです。

そこが合ったときに社員はやりがいを感じ、モチベーションやチャレンジする意欲も高まって成長していきます。個人が成長して、その組織も成長していくことによって会社も価値を高めていける。この好循環を継続的に繰り返していくことが大切だと考えています。

渡辺
お客さまの“いざ”というときに「ちゃんと我々が存在してお客さまの期待に応えますから大丈夫ですよ」とパーパスに謳い、D&Iの取り組みで社員のパーパスへの理解・納得を浸透させ、さらに個人、組織、会社を成長させる好循環をつくるということですね。

東京海上ホールディングスと対談するクリークアンドリバー社の渡辺

鍋嶋
その通りです。世の中が変化しているなかでこれまでとは違ったリスクも生まれていますし、お客さまの“いざ”も変化して、いろいろな“いざ”が出てきています。その“いざ”が何なのかを察知する力が必要です。保険は形がないものですから、結局最後は人なんですね。人がつくり上げていく信頼、お客さまからの信頼が私たちのすべてです。ですから、社会の課題が変わっていくなかで自分たちも時代に合わせて変わっていかなくてはなりません。

一般的に今の状態が心地よいときに変えることには抵抗がありますよね。なぜ変えなくてはいけないの?と。でもそこに向き合うことが必要ですし、それを乗り越えてこそインクルージョンが生まれるんですね。

変化に向き合い、自分ごととして変化を促す、その上で社員がパフォーマンスを最大限発揮でき、やりがいを感じられる環境をつくっていく。そのための地道な活動、エンドレスジャーニー。それがまさにD&Iなのだと思って進めています。

渡辺
具体的にはどのような取り組みをされていますか?

鍋嶋
数値目標を掲げて取り組んでいるのは、ジェンダーギャップの解消です。2030年度までに女性管理職比率30%を目指しています。現時点で課長以上の女性管理職比率は10.4%。元々保険会社は全社員の女性比率は高く当グループでも57%です。いまの主任クラスの母数が順調に成長していけば、30%はクリアできると踏んでいます。
その道筋は、女性社員自身にキャリアビジョンをしっかり描いてもらい、本人たちがどういう仕事をして、どんな姿になりたいのか、何を目指したいのかを、対話をしながら育てていくという方針です。

制度的には、働き方改革の一環ですが一定のエリア内で転居を伴う転勤のある『エリアコース・ワイド型』に、居住地を離れることなくリモートワークを活用して多様な業務にチャレンジできる『リモートJOBリクエスト制度』を加えたり、所定労働時間7時間を5時から22時の間で自由に選べる制度を導入したりと、ワークライフバランスを考慮して働きやすい環境を整備しています。

渡辺
ワークライフバランスの考慮という意味では男女は関係ないですよね。

鍋嶋
おっしゃる通り。最近はできれば転勤したくないという男性社員もいます。
それから、男女関係なく意識の改革という面で取り組んでいるのが『アンコンシャス・バイアス』の払拭です。「無意識の思い込みや偏見」というもので、例えばマネージャーが出張を命じたり、新しい案件を部下に任せようとするとき、育児中の女性にははじめから「無理だろう」と思い込み、女性社員に打診もせず男性社員にアサインしてしまうことがあります。育児中の社員への配慮からかもしれないですが、こうした思い込みは部下の可能性を摘んでしまうことにつながりかねない。

この無意識の思い込みは誰にでもあって、ただ気づいていない。ですからまず気づいてもらい、そこから行動を変えてもらうために『東京海上D&Iフォーラム』というプログラムを部長・支店長クラスを集めて開催していました。20年はコロナで集められなかったのでオンラインで開催しました。オンラインであれば全国の課長クラスも受講できるよねと。それをいまはEラーニング化して全社員向けに展開しています。

渡辺
アンコンシャス・バイアス、私自身も身に覚えがあり反省しているところです。無意識ですから怖いというか、タチが悪いですよね。制度云々以前の問題ですね。

鍋嶋
アンコンシャス・バイアスに気づいてもらう、つまり、決めつけないでほしいということです。男女にかかわらずしっかり対話して、個人の状況を聞く。自分のなりたい姿、こういう仕事をやってみたい、こういう働き方がしたい、というものをそれぞれが持っているはずなので、うまく成長の機会と役割を与えていくのがマネージャーの仕事だと思います。

東京海上ホールディングス執行役員人事部長・鍋嶋美佳氏

渡辺
D&Iの取り組みやパーパスの浸透というのは意識改革的な部分が多いと感じますが、浸透度はどうやって測っているのでしょう。

鍋嶋
測るという意味では「エンゲージメントサーベイ」や「カルチャー&バリューサーベイ」で浸透度を見ています。これらで「どういう会社でありたいという点へ理解はできていますか?」「グッドカンパニーを体現できていると思いますか?」などの項目を聞いていますが、ただデジタルに数値に表れるものでもありません。

当社では、『マジきら会』と呼ぶ「マジメな話を気楽にする会」というものがありますが、これも職場単位でワイワイやるだけでなく、オンラインで全国を結んで気楽な意見交換の場としても活発に行われています。参加した人が「こんなこと聞いたんだけどどう思う?」「こんな事例があったんだけど参考にしてみたら?」といった感じで、自然とD&Iを実践しているんです。それこそ口コミの世界ですが、ジワジワ浸透していったらいいなと思っています。

 

一人ひとりが自分のやりたいこと、自分の価値観に合ったこと、 それに共感できることでやりがいを見出して成長してもらう

鍋嶋
C&R社さんは、人材紹介業務や転職支援の現場でD&Iに関わることはありますか?

渡辺
多様性や包摂という意味においては、我々の現場でもそういった意味合いを含めた採用要件は最近増えてきています。ここ5年くらいで外国籍の方も歓迎しますという企業は増えていますね。とくにIT系エンジニアはプログラミングという共通言語があるので、外国人でもコミュニケーションが取りやすいですから。デザイナーよりもエンジニアの方が活躍されている印象です。

クリエイターの採用動向について話す株式会社クリーク・アンド・リバー社執行役員・渡辺和宏

鍋嶋
多様性という意味では、クリエイティブの世界はそれこそ異なる個性を受け入れて、それらをインクルーシブに活かせる業界だと思われますが。

渡辺
昔に比べると多様性を許容していこうと考える会社は増えてきていますから、これからなんでしょうね。クリエイティブ業界が多様性を否定し、均質化することを良しとするとは思えませんからね。

転職支援という点では、自分のつくるサービスだったり、プロダクトが世の中でどういう位置づけで、どういう価値を提供しているのか、世の中のどんな課題を解決しているのかというところに重きを置いて転職する人は確実に増えています。

鍋嶋
転職というと、スキルアップをする、自分のバリューを高める、あるいはもっと高い年収を求める、権限が増えるといった意味のステップアップを求めての転職だったものが、もっと自分の実現したいことであるとか、社会のために役立っていることを重要視する人が増えているように思います。

渡辺
「社会のために役立っている」というのはある意味会社の存在意義なわけで、パーパスとして掲げていなくても『ミッション・ビジョン・バリュー』というか会社の方向性への共感と考えていいですよね。御社の採用においてはやはりパーパスへの共感を重要視されていますか?

鍋嶋
当社で活躍し、貢献していただくには、やはりパーパスに共感していることは必須です。その上で「どういうことをやりたいですか」「どういうことができますか」という話になります。当社は人のチカラで成り立っている会社ですから、一人ひとりが自分の価値観に合ったやりたいこと、パーパスに共感できることでやりがいを見出して成長してもらう。その環境を整えていくことが企業の価値の向上にもつながります。

そして、お客さまに価値を提供し続けることが大切なので、世の中の価値の変化に敏感に対応して私たちも変わっていかなくてはなりません。そういう意味でD&Iはエンドレスジャーニー、ずっと取り組み続けるものだと思っています。

渡辺
さまざまな観点、価値観があり、その違った観点でみる「良い会社」もそれぞれ違うのは当然です。求める会社、求める人物像も違う。それをうまくマッチングするのが私たちの仕事であり、まさに多様な考え方、在り方があるなかで、活躍できる場を提供するのが使命だと改めて感じることができました。鍋嶋さん、本日はありがとうございました。

おわりに

今回は、「パーパス経営を実現させる D&Iのチカラ」というテーマで対談していただきました。「パーパス経営」とは、パーパス=存在意義・価値を定義、言語化し、事業を通じてそれを実践する経営であること。またそれは、D&Iの取り組みによる会社の制度・環境整備や社員の意識・行動変革が土台となって成し遂げられるものであることがお分かりいただけたと思います。

アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み・偏見)は誰にでもあり、これが部下の可能性を摘みとってしまうこともある。こちらも、耳の痛い話でした。
D&Iの実践といっても企業の在り方によってさまざまです。まずは気づきと変革。エンドレスジャーニーですが、会社の存在意義を高めるためにもD&Iに取り組んでみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

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