公開日:2021/10/11
変更日:2024/08/29
前回に続き、就労体験型インターンや地方創生インターン、AI動画面接など数多くの採用手法を駆使されてこられたソフトバンク株式会社(以下ソフトバンク)の足立様と、クリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)で、デジタル人材の採用において多くの企業を支援してきた執行役員 渡辺の対談をお届けします。
後編の今回は、デジタル人材採用を成功させるために、人事採用チームおよび会社が注力すべき点、取り組むべき具体策を語り合っていただきました。
足立
デジタル人材事業は9,000億円の市場規模があると語られていますが、C&R社さんでは自社にマッチしたデジタル人材を採用するために、人事はどんな思考・活動が必要とお考えですか。
渡辺
まずはその会社が採用活動をしていることを知ってもらうことが先決です。認知されなければ当然誰も手を挙げてくれないので、いわゆる採用広報がこの先重要になってくると思っています。
まず知っていただいて、少しでも縁のあった方を例え採用には至らなかったとしてもソフトバンクという会社のファンになっていただくということが非常に重要なことなのです。そのファン化を進めるためのプロセス設計がすごく大事かなと思います。
足立
おっしゃる通りだと思います。例えば採用における認知度ではないですが、会社としての認知というところは人事だけでできる活動ではなくて、会社全体での活動になっています。というのは、私たちソフトバンクは一般のお客さまだけではなく法人のお客さまからも「ソフトバンク=携帯の会社」というのが第一想起なんですね。それをみんな歯がゆく思っていて。とくに法人ビジネスの部隊はDXといった企業のデジタル化のお手伝いを大規模に進めており、ビジネスも順調に伸びているんですが、まだその点を第一想起いただけるような状態ではない。
その点のブランディングをどう高めていくか、求職者のみなさまにソフトバンクという会社をデジタルカンパニーとしてどう想起していただくか、その入口の部分がものすごく大事になると思っています。
渡辺
そのファン化のプロセスにはいろいろ細かいことがあって、先ほど足立さんからお話いただいた面接官の教育や、広報で言えばイベントの開催、オンラインでの情報発信など、やり方はいろいろあると思います。知ってもらって、接点をつくって、そこからどうやって応募までもっていくのか、そのプロセスに時間をかけている会社は強いと思いますね。
とくにIT人材やプロフェッショナル人材というのはそもそも引く手あまたで、ある意味会社を選べる立場にいる人たちです。そんな人たちに、とにかく自社のことをつまびらかに悪いことも含めて話ができるかどうか。それを伝えたら採用に至らないかもしれないことも、正直に言えるかどうかです。「不利になりそうだから隠しておこう」というのは絶対にやめたほうがいいですね。ソフトバンクに合う人はこういう人、合わないのはこういう人というのをきっちり定義し、それを外に出していくというのが、御社に限らず各社において大事ではないかと思います。
足立
会社全体としてもブランディングに取り組みつつ、人事の採用ブランディングとしてもどれだけデジタル求人が多く、かつ活躍できるフィールドがあるかということを理解していただくという点では、愚直ですがオウンドメディアを活用して発信したり、採用イベントを通して認知度を高めたりしています。また、エージェントのみなさまにもご理解いただけるよう説明会を開催して、「ソフトバンクは実はこういうところに力を入れている」というのを、それこそ渡辺さんがおっしゃっていた通り部門のキーマンが詳細に語り、みなさまからご質問いただいてご理解を深める活動をおこなっています。
別の視点では、やはりエンゲージメントが高いのはダイレクト系リファラル採用なので、極力リファラルを強化するなどの積み重ねで、なんとかこの厳しい戦いを勝ち抜いていきたいなと思っています。
渡辺
認知してもらうという入口の話やプロセスとは別の視点でもう一つ重要なのが、トップが採用の大切さを認識しているかどうかです。その意識の在り方が、その会社の採用力を左右すると私は考えています。例えば、最終面接はトップが会わないと決定できないと言っておきながら、忙しさを理由に3週間先の予定を提示された場合、候補者は引きますよね。そして他社に取られてしまう。
足立さんのようなポジションの方が、経営側と直接コミュニケーションを取りながら「それじゃ採れません」と是正していけるかが非常に大切です。経営トップが採用についてどれだけ重視しているかということと、人事が経営トップときっちりコミュニケーションとれていることがポイントだと思います。
足立
採用においてより競争が厳しいのはエンジニアということで、社長に就任したばかりの宮川と、テクノロジーユニットに本当に必要な人材ポートフォリオを整理しました。各本部から必要なデジタル人材の詳細な情報を集め、集約し、数時間議論するということを何回か繰り返し、5年・10年先のテクノロジーユニットに今後必要な人材ポートフォリオとその人数を設計しました。
課題としては、完成した設計図はあくまで理想図であり、一足飛びにその理想図の人材が採れるのかということ。そして、その理想的な人材が本当にいますぐ必要なのかというジレンマでした。
ここが採用戦略に落とし込むときの難しいところなのですが、私たちは進歩を止めないつもりでいるので、「この先必要な人材」と「今日この場にいてほしい人材」が一致していないんですね。
例えば、足元で求めるのは「目の前の忙しさを解消してくれる優秀な人」であっても、今後の設計図で求めるのは「未来のゼロイチをつくりにいける、今定めているスキルセットにない人材」なんです。そのギャップをどう埋めるか、どこでバランスをとるか。採用戦略を立てるうえではまさに経営戦略との連動が必要ですが、未来をつくりにいくのか、足元を固めにいくのか、そこのバランスは永遠の課題で日々試行錯誤しながら進めています。
渡辺
トップと現場のマネージャーが見ている世界はおそらく大きく異なるので、そのギャップをどう埋めるかなんですよね。
そこが定義されているのは素晴らしいです。逆算のマイルストーンというか、「5年後にはこれくらいじゃなくてはいけないね」と定義されているのが素晴らしい。ほとんどの場合足元だけで、今期どんな人材を採らなきゃいけないかで精一杯になっている会社が多いですから。
足立
渡辺さんとしては、今後デジタル採用の企業支援でどんなところに注力されますか。
渡辺
デジタル人材、プロフェッショナル人材に関わらず労働人口が減っていくなかで、繰り返しになってしまいますが「認知して興味を持ってもらうこと」「興味を持った人に自社の魅力付けをすること」が大事だと思います。そこに工数や予算をかけられる企業が勝ち残っていくのだと思います。
先ほど足立さんが、「リファラル採用が一番エンゲージメントが高い」とおっしゃっていましたが、まさにその通りで、それで採用できていればベスト。それでも足りないときに我々エージェントの機能を使っていただければいいんです。ただし、我々に対してもつまびらかに情報を共有していただけるようなスタンスで採用活動をしてほしいですね。UXデザイナー、ディレクターといったデジタル・クリエイティブ系に関しての知見には自信がありますし、さらにグループ会社には医師や会計士といったスペシャリティ人材を扱うところもありますから、グループ全体で採用のお手伝いができればと思っています。
デジタル人材争奪戦を勝ち抜くためには、中長期の事業戦略・計画に基づいた採用計画をしっかり立てること、そのうえで目前の事業推進のためのキャリア採用にバランスを取りながら採用活動を推進していくこと、この二点が重要。そして、ソフトバンク社の取り組みのように採用チームと事業部門が連携し、相互に理解を深める機会をつくり、さらにトップが採用に対してコミットメントをすることが、デジタル人材の採用をスムーズに行うポイントであると明確化しました。
ただ、それは人事・採用担当者が自社の強みや弱み、事業や組織について知り“続ける”ことが前提になっています。
求職者に寄り添い、自社に応募を促し続けるためには、自社のビジョンやミッションだけでなく各事業部門の業務詳細や目指す未来、応募ポジションの役割や期待されていることなどを応募者に語れる状態をつくることが、人事・採用担当者がまず取り組まなくてはならないことではないでしょうか。
この対談を参考に、厳しいデジタル人材の争奪戦を勝ち抜いていただければ幸いです。
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