公開日:2021/10/11
変更日:2024/08/29
ITやデジタルテクノロジーの進化によって人々の生活が変わっていくなか、企業においてもDX推進に対応できるかどうかが、今後の企業競争力を左右すると言われています。
そのDX推進を担うデジタル人材がいま、業界や業種を問わず不足しており採用市場における大きな問題となっています。
今回は、就労体験型インターンや地方創生インターン、AI動画面接など数多くの採用手法を駆使されてこられたソフトバンク株式会社(以下ソフトバンク)の足立様と、クリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)で、デジタル人材の採用において多くの企業を支援してきた執行役員 渡辺の対談企画を実施。
前編では、企業間の争奪戦が激しく困難を極めるデジタル人材の採用市場の状況、また、採用現場で人事部門にはどのようなことが求められるのかを語っていただきました。
足立 竜治 氏(写真左)
ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長
1997年日本国際通信株式会社(現ソフトバンク株式会社)入社。国際通信の営業、SE(ソリューションエンジニア)職を経て2007年人事部門に異動。人事企画部長、グローバル人事部長、HRBP統括部長を経て2021年から現職。
渡辺 和宏(写真右)
株式会社クリーク・アンド・リバー社 クリエイター・エージェンシー・グループ 執行役員
2002年株式会社クリーク・アンド・リバー社入社。映像分野で活躍する派遣就業クリエイターを担当、また制作受託の営業に従事。
その後2005年から人材紹介事業を担当。
渡辺
まずは簡単に、お互いの自己紹介をしましょう。
足立さんはどのようなキャリアを経て、人事の仕事に携わるようになったのですか。
足立
私は超就職氷河期といわれた時代の新卒で、国際通信の会社に入社後、最初の3年は希望通り営業職に携わっていました。その後、社内にSE(ソリューションエンジニア)が足りないということで、無謀にも手を挙げて、ゼロから学んで6年くらいSEをやっていました。ちょうどキャリアアップを考えていた2007年に上司から1年だけ人事部門に行ってくれと言われ、そのつもりで異動したはずが、気付いたら14年も人事にどっぷりハマっているというところです。(笑)
人事のなかでも人事企画、グローバル人事部の立ち上げやHRBPの統括を経て、現在の採用・人材開発の統括部長に就いていますが、人事に入って気付いたのは、自分は「人」に興味があるんだということ。そして、人事の仕事は答えのない世界に自分たちで答えをつくることができ、直接的に社員の役に立ち結果的に事業の役にも立てる、すごくクリエイティブな仕事だということです。
渡辺さんは、クリエイターの人材紹介サービスという仕事に対して、何か思い入れやこだわりといったものはお持ちですか。
渡辺
C&R社は、代表が「プロフェッショナルの人間が仕事に専念して、よいキャリアを築いて活躍できる環境をつくりたい」という想いを込めて立ち上げた会社で、転職を希望される方の想いに寄り添う姿勢・気持ちが会社全体に浸透しています。私もそのDNAはしっかり引き継いで、「転職者が本当に求めるキャリアを実現できる会社」を紹介することにこだわっています。クライアントをないがしろにするということでは決してないのですが。
足立
採用する側も、転職希望者が求めるキャリアをしっかり実現できる環境を整えておかなくては紹介してもらえないということですね。
渡辺
そうですね。
足立
それではさっそく本題なのですが、いま国を挙げてのDX推進がなされるなかデジタル人材の不足が取りざたされていますが、この市場環境をどう捉えていらっしゃいますか。
渡辺
私たちはもう30年くらいクリエイティブな人材の転職支援に携わっていますが、昨今、クリエイティブの幅が広がって、多種多様なニーズをいただくことが増えています。とくにデジタル・クリエイティブのニーズですね。
ビジネスの在り方自体もデジタルを活用したサービスが増加し、社内体制もIT化・DX化が進んでいくなかで「デジタル人材を置きたい」「新しいサービスを生み出すうえでデジタル人材の採用を強化したい」というクライアントが増えています。
しかし、引き合いをいただくことはありがたいのですが、経済産業省もIT人材が不足していると発表しているように、とにかく人がいないというのが現状です。各企業の争奪戦はこれからも継続していくでしょうね。
足立
日々採用活動している私たちとしても、率直に厳しい環境だと感じています。昨年ですと約600人程度のキャリア採用をしているのですが、IT・デジタル人材は担当領域が広がってきているので、いろいろな事業のさまざまなポジションに応じて採用活動の手法を選別しながら、何とか良い候補者に出会って入社してもらえるよう努力しています。
渡辺さんは私たちのような企業をたくさん支援されていると思いますが、クライアントによって支援のやり方は変えていらっしゃるのですか。
渡辺
デジタル系のプロフェッショナル人材を採用する会社に限定しても、御社のように多くの優秀な人材がいらっしゃるうえで、ピンポイントの専門性をもった人を採用したいとか、汎用的なスキルをもった人を複数人採用したいといった会社もあれば、デジタル人材採用の経験がなく、そもそもどんな人を採っていいのか分からないというレベルの会社までいろいろあります。
御社のように採用ノウハウやリテラシーが豊富で採用にかけられる予算や人員が豊富な会社に対し我々がお手伝いできるとするならば、ピンポイントで「こういう人材が欲しい」といった限定的なニーズにお応えするときでしょうね。逆にデジタル人材採用のリテラシーがない会社の場合は「どういう人を採りましょうか」「どの事業にどんなスキルが必要ですか」といった人材定義するところから支援させていただいています。
渡辺
デジタル人材を採用するにあたって、御社でとくに注力していることはありますか。
足立
デジタル人材に限ったことではありませんが「どういう人を採りたいのか」というペルソナをきちんとつくることを大切にしています。我々キャリア採用チームとHRBPチームが一体となって、そもそもどんな事業をやりたいのかを人事が正しく理解し、そのうえで事業部門と向き合い、「だったらこのポジションにはこのペルソナだよね」と落とし込んで言語化する。そこからロールプロファイリングをつくるという作業を、手間はかかるんですがきちんとやります。それがないとボタンを掛け違ってしまいますから。
渡辺
私たちエージェントがお客さまに伺ったときに対応されるのはたいてい人事の方なのですが、中には事業現場のことをあまりご存じなく、採用要件のペーパーをさらっと渡すだけで事業プランについて質問しても的確な答えが返ってこないことがあります。我々としては一番困ってしまうケースです。
人事の方を信用していないということではないのですが、ヒアリングでは現場のトップもしくは少なくとも面接を担当される方に会わせてください、と強くリクエストします。現場の方から直接お聞きする人材要件や、求人票だけでは見えてこないペルソナを引き出したいですから。現場の声を聞けるだけで、人選の精度は大きく変わります。
足立
現場・事業部門と人事との連携、ペルソナの設定は当然ですが、中長期において何人くらい必要なのかという要員計画を部門とHRBPが連携して、事業計画と採用計画を連動させてつくっています。採用チームだけでは得られない知識をHRBPとセットで動くことによって補完しながら活動していますから、人事でも現場の話ができる当社は渡辺さんの採点では及第点ですね。
渡辺
そうですね。
まずスタンスというか、人事の方が事業理解しようとしているかどうかが大きく違うところです。採用に強い会社の人事はだいたい事業の詳細を語れます。カルチャー面も含めて事業部の特徴などを説明できる人が多い。さらに言えば、採用力のある会社は、候補者の重視しているポイントをきちっと面接のなかでヒアリングできていて、現場の方や上司の面接のときに、そこをフォローできるような戦略を立てて面接することが徹底されていますね。
クライアントと候補者の面接の後、候補者からフィードバックをもらうのですが、「けっこうあいまいな答えで事業のことはあまり理解できなかった」というものが多々あります。人事の方に面接時の留意点として、「せめて面接の前に聞かれそうなことはご自身のなかにインプットしておいてください」と事前にお願いしています。
我々エージェントが候補者を書類で紹介するときにも、その時点で候補者が自社に対して興味を持っているところや懸念点などを詳細にヒアリングしてくる会社はやはり採用力があると感じます。
足立
もうひとつ面接関連で言うと、入社後のミスマッチ防止という意味で気を付けている点が、部門の面接官の印象です。面接官に対して研修を行い、「入社をすれば将来一緒に働くことになる面接官の接し方・見え方次第で会社の印象は大きく変わる」ということをきちんと理解してもらったうえで面接に臨んでもらうようにしています。「その態度は候補者から見るとこう見えるんですよ」ということですね。
また、「いいことだけを言わない」ということもお願いしています。「現実的にはこんな大変なこともある」「現場では当たり前の雑務だってある」といったことを包み隠さずに伝えてくださいと。そうすることで入社後のミスマッチが極力おきないようにしています。
渡辺
事業部門と採用・人事部門の連携に話を戻すと、御社では何か特別に行っている施策はあるのですか。
足立
採用戦略を立てるときの1丁目1番地として、まずは事業部門と一緒に中長期の事業戦略および来期の事業戦略に基づいて検討します。とはいえ採用人数、予算に限りはあるので、優先順位をつけて戦略を立てるといったところをも大事にしています。
採用・人事部門間の理解を深める活動については、例えば当社のテクノロジーユニットには18の本部があるのですが、HRBPがその本部一つひとつに時間をもらってビジネスやエンジニアの仕事をヒアリングしています。
それぞれの部門の仕事を理解して、それをチームにとどめず人事内の必要な人全員にシェア会という形で内容をシェアするんです。自分の持っている知識を話すことによって、自分の知識の定着にもなるし、聞いた人は理解が深まります。非常にベタですが、そういうことをずっと繰り返して行っています。
渡辺
それを続けるのはすごくハードルが高い感じがしますけれど、継続して回すコツはあるのですか。
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