公開日:2021/09/15
変更日:2024/08/29
SDGs『Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)』の概念や取り組みは、企業経営のみならず一般生活者にも裾野が広がっています。サステナビリティ(持続可能性)の考え方は社会生活に浸透し、政府も積極的に推進しています。
そうした社会環境のなかで、企業組織と従業員をつなぐ人事の果たす役割も重要になっています。
そこで今回は、企業のサステナブル・ブランド向上のために、人事部門が取り組むべきポイントや重要性を解説します。
本章では、サステナビリティへの取り組みやSDGsの目標実現に向けて、人事部門が果たす役割とは何か。また、人事における「ダイバーシティ経営」、「健康経営」など、サステナビリティへの取り組みが、企業のサステナブル・ブランド構築につながることを解説します。
サステナビリティ(持続可能性)への取り組みは、いまや企業間競争の優位性やブランド戦略・構築のための戦略要素となっています。またSDGsは、労働基準法や労働安全衛生法、男女雇用均等法などの人事部門が日常的に扱う労働に関する法令とも深く関わっており、これらの遵守がSDGsグローバル基準の目標にもつながっています。
サステナビリティへ向けた取り組みを行い、サステナブル・ブランドを築くには、目標やスローガンを立てるだけではなく、実態が伴わなくてはなりません。
経営層がサステナビリティに対する信念と哲学を持つことはもちろん、従業員一人ひとりがそれを理解し、自分ごととして捉えることが重要です。
また、企業経営ではCSR『corporate social responsibility(企業の社会的責任)』の視点も重要となり、CSRの活動そのものがサステナビリティ、サステナブル・ブランドを推進することになります。
①企業イメージ、信頼性の向上
SDGsの社会・環境課題としっかり向き合い、実現可能な対策を具体的に打ち出し実行している企業であることをアピールできれば、企業イメージ、信頼性の向上につながります。また、SDGsはグローバル基準のため海外からの評価を受けやすくなります。
②人材採用に有利な採用ブランディングの向上
学生は企業のSDGsの取組に対して一定の関心を持っており、真摯な取り組み姿勢は好印象を与えます。公正公平な雇用・昇進、差別のない労働環境などに取り組んでいる企業には、多様な個性と優れたスキルを持つ人材が集まることが期待できます。
③従業員の意識、モチベーションの向上
従業員にSDGsに対する当事者意識を持たせることで、モチベーションの向上が図れます。SDGsを達成するために自分たちに何ができるのかをそれぞれが考え、実践することで従業員同士の一体感も生まれます。また、企業イメージの向上、ブランド力の向上によって、「この会社で働く喜び」を感じられる効果も期待できます。
①ジェンダー平等の実現(SDGs目標No.5)=ダイバーシティの推進
男女平等・LGBTに配慮した組織づくり、差別をなくした個人の多様性を認めるなど、企業にはダイバーシティの推進が求められています。
②人や国の不平等をなくそう(SDGs目標No.10)=多様な働き方の実現
差別のない公正な採用や労働環境の実現が求められます。採用・雇用・賃金・昇進などそれぞれの場面で、障がいの有無や性別の違い、国籍の違いで差別をしない公正な採用、労働環境を実現することです。社員の評価や処遇は能力と実績をもとに公正・公平に行う必要があります。
③働きがいも経済成長も(SDGs目標No.8)=従業員への能力開発の機会提供
すべての従業員の権利を守り、安心して仕事に取り組める環境の構築や、能力開発の機会を提供し、やりがいを持てる職場づくりを推進することが求められます。 この目標には「若者や障がいのある方を含むすべての男女が働きがいのある仕事に就き、同一労働同一賃金を達成すること」がターゲットとして据えられています。
④すべての人に健康と福祉を(SDGs目標No.3)=健康経営
従業員の労働環境を整備するために、残業規制や過重労働防止措置など「健康経営」に関連した取り組みがこの目標の主旨となります。
従業員の病気やメンタルヘルス面の不調を防ぐことで、採用コストの増大や生産性の低下といったリスクを回避でき、SDGsへの取り組みとなるほか、企業価値(ブランド)や業績向上が期待できます。
本章では、サステナブル・ブランド向上に成功している企業の実例を紹介し、その成功例から学ぶべきポイントを紹介します。
<ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社>
〇事業成長とサステナビリティの両立を目指すことは、創業時からの「当たり前」
SDGs登場以前の2010年の時点で、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」という独自のパーパス(企業としての目的・存在意義)を掲げた「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を導入。
〇ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン
環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスを成長させることを目指す事業戦略。「10億人以上のすこやかな暮らしを支援」「製品の製造・使用から生じる環境負荷を半減」「数百万人の暮らしの向上を支援」の3つの分野で、9つのコミットメント、50以上の数値目標を設けている。
〇導入から10年、8割以上の取り組みで目標を達成済み
単に目の前の課題を解決するのではなく、先にパーパスを掲げて未来を描き、そこから逆算して現在の施策を考える発想、バックキャスティングでSDGsを実践。
〇社員のマインドから変える。SDGsへの取り組みはそこから始まる
ビジネスとして続けていくためには、社内への浸透が必須。「これをやらなければ、企業として生き残り、成長し続けることはできない」という強いメッセージを、経営陣があらゆる機会を使って全世界の社員に伝え続けた。
<株式会社ユーグレナ>
〇企業理念を刷新、新たなフィロソフィー「サステナビリティ・ファースト」を掲げる
ユーグレナグループの全員が「自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける方法」を常に考え、行動している状態を目指す、という意味が込められている。
〇「サステナビリティ・ファースト」を自分ごと化する
「マイ・サステナビリティ」という図を作成し、共有するためのワークショップを重ねている。人事課内でも「サステナビリティ×人事」のありたい姿についてのディスカッションを進めている。
〇いかに人事の定常業務を効率化させ、非定常業務に注力するかが重要
サステナブルな状態を「誰かにしわ寄せがいくことなく、健全に組織として仕事が回る状態」と考え、専門業者への労務管理業務のアウトソーシング、クラウド型の人事管理ソフト・給与計算ソフトなどのHRテクノロジーを活用している。それによって業務が回るようになったら、新たな非定常業務に取り組み、持続可能なサイクルを生んでいく。
①間接部門である人事が「サステナビリティ」の視点を持ち、先導してアクションをとる。
上述したユーグレナ社のように、人事課が独自にサステナビリティを自分ごと化するため、「マイ・サステナビリティ」の図を作成し共有するなど、発信と実践を人事が先導して行動することが大切です。
②サステナブルブランド・ブランド構築は社内の浸透から
取り組みに対して社内から反発があったとしても、トップからのメッセージだけに頼らず 人事が各部門に積極的にコミュニケーションをとり、社内に「サステナビリティへの共感」を浸透させていくことが大切です。
今回の記事では、人事の視点でSDGsに取り組むメリット、これだけは押さえておきたいSDGsの目標、成功例やそこから学びたいポイントを解説・紹介してきました。
人事がサステナビリティへの取り組みを社内に働きかけ率先して行動することで、企業全体に意識が浸透し、その結果、企業としての取り組みが評価され、サステナブル・ブランドとして確立されていく好循環が生まれます。
優秀な人材採用のために、企業ブランドの向上のために、働きやすい職場・労働環境をつくるために、サステナビリティへの取り組みにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
●東京海上ホールディングスに学ぶ、パーパス経営を実現させるD&I推進の取り組みと戦略
●企業のパーパスと人事・採用戦略を連動させるには?
●サステナブル・ブランドとは?サステナブル・ブランド向上に成功している企業実例を解説
この記事を書いた人
大学を卒業後、関西の広告代理店へ入社し、営業として求人媒体の広告販売や雑誌メディアの広告販売、SPツールの企画、提案、制作進行管理を4年ほど経験。クライアントは地元関西の企業や飲食店、美容室などがメインでほぼ新規での営業を経験。その後、クリーク・アンド・リバー社へ転職し、13年...