公開日:2023/01/13
変更日:2024/08/29
変化が激しく、将来の予測が難しいVUCA時代において、企業が成長を続けるためには、一部の経営層だけが意思決定し先導するのではなく、現場のリーダー層および社員各自が組織のミッション・ビジョン・バリューを理解したうえで、柔軟に意思決定、変化に対応することが必要です。そのためには、社員が「自分の意思を持ち、自分をコントロールしながら、目標・目的に合った行動ができる」自律型人材になることも求められます。
しかし、一朝一夕で自律型人材が育つわけではなく、社員は自らのキャリアを主体的に考える「キャリア自律」に取り組み、企業は社員にキャリア自律を促し、支援する必要があります。
この記事では、キャリア自律の定義から、注目されるに至った背景、得られるメリット、企業が支援するにあたってのポイントなどを紹介・解説します。
本章では、キャリア自律とは何か?そして、キャリア自律が注目されるに至った背景を解説します。
自律型キャリア開発プログラムを策定したアメリカのキャリア・アクション・センターでは、キャリア自律を次のように定義しています。
「変化する環境において自らのキャリア構築と学習を主体的かつ継続的に取り組むこと」。従来のキャリア開発(形成)は、企業の業務や研修などの経験を通じて形成されるものであり、企業側が「どのような人材になってほしいかを考えて教育するシステム」だったため、社員は準備されたプログラムや仕事をこなすだけでキャリア形成がなされていました。
「キャリア自律」は、企業主導ではなく、社員個人が自分のキャリアを考えて自律的にキャリア開発を行うことであり、企業側もそれを推奨し、支援することが求められています。
新卒一括採用、終身雇用を前提とした年功序列的なキャリア形成から、ジョブ型雇用を取り入れる形などに変化しています。社員は自らのキャリアを自律的に考える重要性が増し、企業もまた、社員のキャリア自律を支援する必要に迫られています。
業務のアウトソーシング、リモートワークの浸透、社員の副業許可などさまざまな働き方を導入する企業が増えています。キャリア形成の主体が組織から個人に移行・変化してきていると言えます。
労働力人口の減少、グローバル化、DX推進などの流れを受けて、生産性や専門スキルを重視するジョブ型雇用へとシフトする企業が増えてきています。ジョブ型雇用では、職務に就くために積極的な学習やスキルアップが必要になっています。
本章では、キャリア自律を推奨・推進するメリットを紹介します。
企業側が社員のキャリア自律を支援することで、社員は自分のスキルアップを支援してくれる企業に魅力を感じ、エンゲージメントが高まる効果が見込めます。また、社員の求める、もしくは適切なポストを用意し、それに必要なスキルの習得を支援すれば、お互いにメリットのある関係性が築けます。
自律型人材が増えれば、社員の積極的な学習や成長、それによる業務効率化といった結果が期待できます。また、現在の業務を活性化するために自ら考えるようになり、生産性が向上します。
一人では解決できない課題に直面したとき、上司やメンバーに相談や協力をお願いできるのが自律型人材の特徴のひとつです。主体性を発揮して周囲と連携していく姿勢は、助け合いや連携ができるチームワークを生み出します。
現状のやり方では目標達成が難しいとなったとき、現状に固執せず新しい方法などを考え出そうとする自律型人材の姿勢は、新たなイノベーションの創出につながります。
本章では、企業側がキャリア自律を促進・支援するためにどのような施策が求められるかを紹介します。
社員がそれぞれのキャリア形成を考えながら、中長期スパンで成長できるプログラムを提供することが大切です。企業主導ではなく、社員の意思と選択の自由を尊重し、自社内で自由なキャリア形成ができる環境を整えることが必要です。
年代や属性にあわせて最適な支援をすることで、有効な効果が期待できます。例を挙げれば、一定年数経過時(入社から3年~5年経過)、一定年齢到達時(30歳・40歳到達)などが当てはまります。
社員のスキルアップを図るには、新しい職務に挑戦する機会を与えることも大切です。機会提供は労働意欲の向上につながり、キャリア自律を促すことにつながります。
【人事制度参照】
・ジョブローテーション:人事計画に基づいた戦略的人事異動
・自己申告制度:目標や問題点などの自己評価から特技や希望職種を申告してもらう制度
・社内公募制度:人材が必要な部署やポジションを社内から募集をかけ、社員が応募をする制度
・社内FA制度:キャリアやスキルを希望部署にアピールし、希望職種・職務を登録する
自ら手を挙げるという行為自体がキャリア自律の促進に有効です。主体的に仕事をする人材を育てるには、まず自ら手を挙げられる状態をつくる必要があります。
窓口があると、キャリア自律を推進していることを社員に発信できるほか、適宜アドバイスできるメリットがあります。
上司にキャリア自律の理解がないと、部下は行動できません。上司も中長期的な視点をもって、さらに企業全体で情報共有し、キャリア自律の支援を行うことが大切です。
副業や兼業で外部からの刺激を受けることもキャリア自律の支援につながります。外部との交流は新たな知識・スキルの習得、人脈の拡大が可能となります。
本章では、キャリア自律の推進に取り組んでいる企業を紹介します。
社員に自分自身の課題、自社(組織)の課題、自身と組織の在りたい姿、三か年計画とその実現に向けて阻害要因になりそうなメンタルモデルなどを分析し、シートにまとめる施策を実施しています。それを基に、職場でメンバーを巻き込みながら行動計画を具体化し、上司に合意を得てアクションまで実施します。内省的な振り返りを重視することでキャリア自律を促進しています。
2010年から「キャリアサポート室」を設置し、キャリアを考える機会づくりをするなど、さまざまな育成の仕組みづくりを行っています。
2020年度よりジョブ型雇用を導入。階層別教育を撤廃し、選択研修やLMS(ラーニングマネジメントシステム)といった学習機会を提供し、社員のスキル獲得、キャリア開発を促しています。
この記事では、キャリア自律の定義から、注目されるに至った背景、キャリア自律の実施から得られるメリット、企業が支援するにあたってのポイントなどを、キャリア自律を推進・支援している企業事例も含めて紹介してきました。
キャリア自律を促し、自律型人材を育てることで、生産性の向上、チームワークや組織内連携の強化、変化対応力やイノベーションの創出といったメリットが生まれることがお分かりいただけたと思います。
グローバル化、DX推進など複雑化・不確実な時代を生きる企業にとって、成長するためには経営層だけでなく社員も含めた組織全体のキャリア自律が必要です。本記事を参考に取り組まれてみてはいかがでしょうか。