公開日:2021/12/23
変更日:2024/08/29
DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業が増えているなか、その推進を担うIT・デジタル人材の不足が深刻化しています。
情報処理推進機構(IPA)が2021年4月22日に公表した「デジタル時代のスキル変革等に関する調査」では、IT人材が「大幅に不足している」「やや不足している」という回答が合計で9割を超えており、とくに「DXで成果が出ていない」と考えている企業の52.9%が「大幅に不足している」と回答しています。
この記事では、「IT・デジタル人材不足解消に向けた取り組み状況」について調査したHRプロのアンケート結果をもとに、IT・デジタル人材の採用活動の手段・採用目標・採用課題と対策について解説します。
出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00989/071600060/
【調査概要】
○アンケート名称:「IT・デジタル人材不足解消への対策」に関するアンケート
○調査主体:株式会社クリーク・アンド・リバー社
○調査機関:2021年7月20日~22日
○調査方法:Webアンケート
○調査対象:上場および非上場企業の人事責任者・担当者
○有効回答:182件
目次
「IT・デジタル人材不足解消」のための中途採用において、活用している手法・手段を聞いたところ(※1)、全体では、「自社採用サイト」「人材紹介」「求人メディア」の3項目が上位という結果になっています。
企業規模別にみると、従業員1001名以上の企業は「自社採用サイト」、従業員301名~1000名の企業は「人材紹介」がトップとなり、規模によって注力している手段が異なる傾向が見てとれます。
「人材紹介」「求人メディア」といった社外の採用支援エキスパートを利用しつつ、独自の「自社採用サイト」で求職者を引きつけ、採用に導くことが必要と考える企業が多いことがうかがえます。また、自社の社員をリクルーターとして求職者を一本釣りする「リファラル採用」が全体の4位に入ることも、採用手段の内製化に各企業とも注力し始めていることを表しているといえます。
(※1)■貴社では、「IT・デジタル人材不足解消」に向けて、どのような手段を活用して中途採用に取り組まれていますか。該当するものをすべてお選びください。
その他、「SNS」「採用広報(オウンドメディア・Wantedlyなど)」は、全体、規模別に関わらず、まだまだ、取り組みが遅れている企業が多いことが分かります。
業務の複雑化、雇用形態の多様化、求職者のリテラシー向上など、これまでの手法やメディアではフォローできない部分を補うためにも、こういった手法に取り組んでいく必要があると考えます。
いち早く取り組み採り入れている企業は、取り組んでいない企業と比較して、満足のいく採用ができている傾向があります。
クリエイティブ職における中途採用目標人数を聞いたところ(※2)、「1~10名の採用」が29%ともっとも多く、少数精鋭の採用を検討している企業が多いことがうかがえます。
最初にコア人材を獲得し、徐々に戦力を増やしていく中長期的な採用戦略をとっていることもうかがえます。
ただし、全体の63%は「中途採用計画はない」と回答しており、DX推進を検討しながらも、中途採用や自社リソースの強化を実施する段階ではないと考える企業が多いことも見てとれます。
(※2)■貴社における、特にクリエイティブ職(デザイナー・ディレクター・プロダクトマネージャー・コンテンツクリエイター等)の採用目標人数は何名になりますか。該当するものを一つお選びください
上記アンケートを当社なりに考察すると、「クリエイター・エンジニアの採用については、IT人材不足が喫緊の課題といわれるなかで、今後は「内製化」に舵を切る企業が出てくるのではないかと考えています。
ホームページ制作・運用、マーケティングや基幹システム構築・運用を、外部のSIerやデザイン会社に丸投げをするというのが従来からの構造でしたが、競争力のある体制づくりや、イノベーション・新しいビジネスの創出、データ活用がビジネス成功のカギを握るようになった昨今では、外注頼みでは先細り感が強いと、危機感を抱き始めた企業が増えてきたからと推測します。
競争には勝つことができない、イノベーションが生まれないなどの弊害が出てきたため、消極的なクリエイター・エンジニア職採用のデメリットに気が付いた日本企業が、少しずつ積極採用、内製化する動きに転換していくのではないでしょうか。
今後のIT・デジタル人材の不足解消に向けて、採用活動において取り組むべき優先課題を聞いたところ(※3)、従業員数1001名以上の大企業を中心に、クリエイティブ人材の母集団数の増加、質の向上を優先している傾向が見てとれます。
そのうえで、採用後のミスマッチは起きてほしくないと考えており、優秀な人材を数多く獲得したいと思いつつも、早期離職のリスクを不安視している状況もうかがえます。
一方、300名以下の中小企業は「特に問題はない」の回答が多く、IT・デジタル人材の不足解消に対して差し迫った課題がない、または採用自体を検討していない可能性も見てとれます。
(※3)■今後のIT・デジタル人材の不足解消に向けて、採用活動において取り組むべき優先課題は何ですか。貴社において該当するものをすべてお選びください。
また、上記アンケートに関連した情報を補足として紹介します。
母集団の質量双方の向上を目指す企業のニーズに応えるように、IT・デジタル人材の採用・育成に積極的に取り組んでいる企業も増えてきています。
「コロナ禍で企業のDX化が加速する一方で深刻化するデジタル人材不足の解消を目指す」をスローガンに、「2030年までに1万人のデジタルクリエイターを採用・育成」する目標を掲げる株式会社メンバーズもその一つ。
当社でも、新卒・第二新卒に注目し、長期視点でデジタルクリエイターを輩出していく取り組みに着手しています。
参考:
https://www.members.co.jp/company/news/2021/0202_2.html
https://www.cri.co.jp/recruit/webprofessional/
○「質問3でお答えいただいた課題に対して、貴社ではどのような対策をお考えですか」の回答から従業員規模別の対策の傾向を考察します。
【従業員数1001名以上】
・母集団の質や採用後のミスマッチ防止のため、信頼性の高い「リファラル採用」やエージェントなど外部リソースの活用を検討している。 ・採用ブランディング強化のため、SNSをはじめとしたメディアへの露出展開を検討している。
【301~1000名】
・母集団の量と質の向上対策として、デジタル人材に合った労働条件の提示や求人広告の見直しなど、採用戦略から見直す動きがある。
【300名以下】
・採用ホームページの強化、人材紹介といった外部リソースの拡充、採用ブランディング、採用活動の見直しを図る中小企業はみられるものの、非常に少数。 ・明確な対策がない(思いつかない)、現状の雇用維持という回答も目立ち、クリエイティブ人材の獲得に苦慮しているのが現状。
情報処理推進機構(IPA)の2021年4月の調査では、約9割の企業がIT人材の不足を訴えています。そのような状況下で、各企業はIT・デジタル人材の採用・育成をどのように行っているのか、この記事ではHRプロの調査結果をもとに解説・考察してきました。
IT・デジタル人材の採用・育成に関して、従業員数1001名以上の企業では、積極的な採用と対策を講じていることが見てとれましたが、具体的な手法や対策がとれている企業はまだ少ないのが現状です。とくに300名以下の企業では「採用計画すらない」という回答が多く、このゾーンの底上げが産業界全体の課題ともいえるでしょう。
内製化については、まだまだ積極的でなく、外部・アウトソーシングに依存している流れは続いていくと思われます。イノベーション創出やIT・デジタル化の実現で企業競争力をつけていく観点で、クリエイター・エンジニアの採用を改めて検討・見直していただければ幸いです。
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この記事を書いた人
大学を卒業後、関西の広告代理店へ入社し、営業として求人媒体の広告販売や雑誌メディアの広告販売、SPツールの企画、提案、制作進行管理を4年ほど経験。クライアントは地元関西の企業や飲食店、美容室などがメインでほぼ新規での営業を経験。その後、クリーク・アンド・リバー社へ転職し、13年...