公開日:2021/12/24
変更日:2024/08/29
「HR Tech」は、その導入により、企業の採用活動や人材育成、人事異動、給与・労務管理、評価といった人事関連業務を効率化し、生産性の向上が期待できるものとして注目されています。少子高齢化が進み、「働き方改革」が浸透する環境のなかで、企業が成長するためには、いまや「HR Tech」は欠かせないものとなりつつあります。
しかし、何の計画性もなくやみくもに導入するのではなく、会社の状態に適したシステムを導入し有効活用していくことが重要です。
この記事では、「HR Tech」の導入を検討されている人事担当者のために、2021年上半期における国内外の最新事情を紹介するとともに、導入の注意点、活用のポイントなどを解説していきます。
本章では、「HR Tech」の導入で得られる効果と、「HR Tech」や最新トレンドに着目した世界最大のHRカンファレンス『HR Technology Conference & Exposition』のレポートを基に、市場のトレンドや変化を紹介します。
HR総研が主体となり調査した、『HR総研:働き方改革(HRテクノロジー)に関するアンケート』によると、国内の「HR Tech」導入済み企業の、導入によって達成できた主な成果は次のような事項となっています。
・採用プロセス管理の時短と効率化を達成:従業員数1,001名以上/メーカー
・従業員エンゲージメントの向上:従業員数1,001名以上/メーカー
・労務手続きなど業務のマルチタスク化の実現:従業員数301~1,000名/サービス
・業務の自動化、完全テレワークの実現:従業員数301~1,000名/情報・通信
・制度や施策の導入・改訂に関する意思決定を数値化により支援:従業員数300名以下/サービス
・日々の残業時間、連動状況が管理でき、事前に注意喚起が可能に:従業員数300名以下/マスコミ・コンサル
本項では、世界最大のHRカンファレンス『HR Technology Conference & Exposition』のレポートを基に、市場の変化や最新トレンドを紹介します。
1.職場に関する概念を一度リセットする必要性
コロナ禍において、新しい働き方が求められるなか、HR部門は組織内でもっとも素早く立ち直り、成長する能力や適応力を求められました。
2.HR Techの視点の変化
リモートワークの増加により、「HR担当者向けのHR Tech」から「従業員を軸にしたWork Tech」への変化が求められています。HR担当者がタレントマネジメントする視点から、従業員のワークフローを支援する視点へと移り変わっています。
3.従業員の業務の質を高めるシステムの必要性
ワークフローをスムーズにするためのコミュニケーション、スケジューリング、プロジェクト目標設定ツールなど、従業員の業務の質を高めるシステムが必要とされています。
1.HCM(Human Capital Management:人的資本マネジメント)領域
コアとなる機能の統合化が進んでいます。
また、大手ベンダーは必要な機能の独自開発は難しいと考え、以下の分野で小規模ベンダーと提携する重要性を感じています。
・COVID-19の対応と報告
・コンプライアンス
・業務管理の強化
・新しい学習プラットフォーム
・AIを活用した採用
・ウェルネス、フィットネスアプリ
・ダイバーシティとインクルージョン製品
・チーム管理ツール
・キャリアマネジメント
・従業員の経験
・Slack、ワークプレイス、G-Suiteとの統合
2.タレントマネジメントの進化
従来のタレントマネジメントシステムは、評価システムを採用したトップダウン形式が主流でした。
現在は、多くのプロジェクトに関わる従業員、クロスファンクショナルな役割、ジョブシェアリング、世代を超えたチーム、多様なキャリアパス、健康や安全など、さまざまな要素を考慮する必要があります。
3.従業員プラットフォーム
コロナ禍以前の従業員エクスペリエンスは、福利厚生や勤務体系の柔軟性が魅力とされてきました。
コロナ禍では、在宅勤務やテレワークなど場所にとらわれず、安全かつ効率的に働くことが重要視されるようになり、在宅ワークへの対応や孤独対策などがクローズアップされてきました。そのため、年に一度のエンゲージメント調査ではなく、継続的かつ迅速に実行できるプラットフォームが求められています。
4.ラーニングプラットフォームの新時代
従業員の学びに関して、仕事をしながら学んでもらうことと、能力アカデミーを構築することが必要になっています。
ラーニングプラットフォーム市場は競争が激しく、多くのベンダーが参入していますが、マイクロラーニング(2分以下のビデオや記事形式の学習ツール)の分野が急成長しています。また、ハードスキルだけでなく「共感性」「チームワーク」「客観性」といったヒューマンスキルが学べるコンテンツが求められています。
5.キャリア(人材配置の変化)
人材配置の方法がヒエラルキー型ではなくマーケットプレイス型(需要と供給で人材配置が決定される)になっています。
コロナ禍の社会では、仕事の流動性が高まっており、社外の人材を使う、スキルベースで人材配置する動きが活発化しています。また、ジョブシェアリングの利用も増加しています。
6.ウェルビーイングと従業員体験
コロナ禍で、環境的な不安や健康的な問題、心理的なストレスを抱える人が増加し、企業は従業員のウェルビーイングについてこれまでよりも注力する必要があります。
健康でいること、ストレスを減らすこと、集中できる環境を提供し、臨むキャリアを支援することは、組織全体の生産性や従業員の定着率に関わってきます。
7.ピープルアナリティクスは必然
現在アナリティクスを使ってビジネスの成果を予測する企業は34%という数値がでています。ピープルアナリティクスはコロナ禍において、レジリエント人事(回復力をもたらす人事)として重要な役割を果たすと考えられます。
8.従業員中心のHR Techの枠組みづくり
1から7を要約すると、「複雑性を排除し、いかに従業員がシンプルに働きやすい環境をつくるか」に絞られます。
つまり、無駄なプロセスを排除して、危機的状況に対して迅速に対応できるツールが必要になってきたといえます。
ツール購入は、技術力の高さだけではなく、従業員にヒアリングして、直近で解決すべき問題を洗い出すことが先決です。そこから上がってきた問題を、もっとも効率よく解決できるツールを導入することが大切です。
AIによるルーティンワークの自動化に加え、コロナ禍や働き方の多様性に対応するためのHR Techが必要とされています。従業員の働き方、新たな信頼関係や安全性の構築、ウェルビーイングの提供、リモートワークの対応などさまざまな対応が求められています。DXの浸透で、企業は適応力の高いHR Techを望んでいます。
2020年は「パンデミックで自宅勤務となった場合でもスムーズに業務ができる製品」が評価され、また、人種差別問題のトレンドから、「従業員の多様性を尊重するセンシティブなHR Tech」も評価されました。
本章では、日本における「HR Tech」導入の現状(目的)、今後の導入に向けて注力すべきこと、活用のポイントを解説します。
HR総研『HR総研:働き方改革(HRテクノロジー)に関するアンケート』の、『導入(追加導入含む)を検討中の企業における導入目的』(※1)では、「属人的作業の標準化」が最多で68%、次いで「定型業務量の削減」が63%、「作業コストの削減」が62%と業務効率化に関する項目が上位を占めています。
しかし、追加導入を検討する企業では、「エンゲージメント向上」「従業員の健康改善」が上位となり、単なる業務効率化にとどまらず、より高度な「HR Tech」を活用した人事業務を目指していることがうかがえます。
※1 導入助教別 導入検討中のHRテクノロジーの導入目的
出典:https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=269
HR Techを導入するにあたり、フォーカスすべきポイントを次に挙げます。
1.従業員エクスペリエンス(良い体験)の創出・向上
→「タレントマネジメント」から「ワークスエクスペリエンス(現場のエクスペリエンス)」へ転換。
2.従来の業務プロセスの見直し、自動化による効率化と業務量・作業コストの削減
→自社の人材・組織力をデータとして把握し、人が行う作業をHR Techで代替することで業務量・コストを削減。
3.ビジネス環境の急激な変化への対応
→多様化するデータをどのように定義し整備するか、急激に進化するAIなどの分析手法の選定も重要。
「HR Tech」を駆使することで、従業員が働きやすい職場環境をつくり、人材の流出を防止し、従業員の定着率向上につながる効果が見込めます。
人事が優先すべき課題やトレンドを踏まえたうえで、自社の成長に必要な「HR Tech」を選択する必要があり、最適な「HR Tech」を導入すれば、企業の成長力・競争力の向上が期待できます。
1.イノベーションを起こせる人材を育て、イノベーションを起こさせる組織をつくる
イノベーションを起こす人材=「自律した個人、自分で何かができる人」。イノベーションを起こせる組織=「多様なメンバーがいて、みんなが自律している」と定義します。
この組織を束ねるマネージャーに求められるものは、データに基づく意思決定と、継続的にメンバーのパフォーマンス&エンゲージメントを高めていく力です。
2.データの可視化
「必要な人に、必要なデータを、必要な形で、必要なタイミングで配信できる」。
誰がどういう役割で、どういう責任で、どういう権限をもって、どういう仕事をしているのか、その人の仕事上でのすべてを記録しているものが人事システムです。その人事システムを中心に、データ配信のプラットフォームを構築していくことが「HR Tech」です。
3.ピープルイネーブルメントの実現
タレントマネジメントからピープルイネーブルメント(社員のできる化)への転換を行い、一人ひとりの能力を最大限に引き出し、すべての社員を「できる化」していきます。
ピープルイネーブルメントには次の4要素を整える必要があります。
1.エンゲージメントを高める
2.権限の委譲
3.適材適所
4.能力開発
これらが一体となることで、「社員のできる化」が実現します。
この記事では、「HR Tech」の国内外の最新事情を紹介するとともに、導入の注意点、活用のポイントなどを解説してきました。「HR Tech」はいまや、人事のルーティンワークのデジタル化だけでなく、新たな働き方や多様性への対応を求められていることがお分かりいただけたでしょう。
コロナ禍の対応で健康や安全面での不安が広がるなか、企業ならびに人事担当者は業務・労務管理や安全性の確保を整え、さらに従業員のキャリアパスや学習を「HR Tech」を活用して充実させていく必要があります。
「HR Tech」により、人と情報を最大限に生かして、厳しい環境下を勝ち抜ける企業に成長されることを願います。
この記事を書いた人
大学を卒業後、関西の広告代理店へ入社し、営業として求人媒体の広告販売や雑誌メディアの広告販売、SPツールの企画、提案、制作進行管理を4年ほど経験。クライアントは地元関西の企業や飲食店、美容室などがメインでほぼ新規での営業を経験。その後、クリーク・アンド・リバー社へ転職し、13年...