公開日:2021/09/18
変更日:2024/08/29
個人や法人が所有するモノやスキルなどを共有する経済の仕組み「シェアリングエコノミー」が市場を伸ばしています。そのなかで人材を占有する雇用の形から、必要なときに必要なスキルをもつ人材にアウトソーシングするシェアリングが注目されています。
本稿では、シェアリングエコノミーが企業経営や人事業務にどのような影響をおよぼすのか、そのメリット・デメリット、シェアリングと類似的に語られる副業・兼業を含め解説します。
また、似た意味合いを持つワークシェアリングについても同様に解説します。
本章ではシェアリングエコノミーの基本的な仕組み、メリット・デメリットを、人事業務における活用視点を基に解説します。
「シェアリング」とは、個人の保有する使われていない資産(モノ・場所・スキル・時間)を、仲介者を介すことなく主にネット上のやり取りで貸し借りすることを指しています。 個人レベルでは、「所有する」から、必要なときに必要なものを「シェアする」という新たなライフスタイルとして市場を伸ばしています。
クリエイティブ領域に置き換えると、IT・Web系のクラウドソーシングプラットフォームが注目を集め、スキルの高いクリエイティブ人材の登録数も年々増加傾向にあります。 「シェアリングエコノミー」は、その考え方を企業の業務に採り入れ、社会のなかの遊休資産を業務に有効利用して、新しい価値を生むビジネスモデルとして注目されています。
①活用できていないモノ・時間・スキル(資格)・場所を有効活用できる
例えば、保有していても発揮できていないスキルや資格、リモートワーク・在宅勤務で生じた余剰時間など、宝の持ち腐れになっているスキル(資格)、時間、モノ、場所といったものは多く存在します。それらを企業が必要とするときにタイムリーに有効活用できます。
②就労形態と働き方の多様化実現
日本特有の年功序列・終身雇用の形である「メンバーシップ型雇用」から、専門スキルを活かし、職務や勤務地を限定する「ジョブ型雇用」による適材適所の働き方が拡大し、就労形態、働き方の多様化というイノベーションが起こります。
③コスト削減、品質向上につながる
雇用という形で人材を所有するのではなく、必要なときに必要なスキルを持つプロにアウトソーシングするため、コスト削減や品質向上が期待できます。また、受ける側も自分の得意分野を活かしながら、場所や時間に拘束されず報酬が得られ、実績を積むことができます。
④副業や兼業を許容することで企業の魅力やエンゲージメントが上がる
自分の得意な仕事・スキルを存分に発揮したいと望む社員に、他社や他のプロジェクトでスキルをシェアできる副業・兼業を許可することで、柔軟性に富む企業姿勢の魅力アップや社員のエンゲージメント向上という効果が期待できます。また、副業で得た新たなスキルを自社の本業に還元してもらえる効果も期待できます。
①不安定な安全性
対個人の取引関係ゆえに契約があいまいになりがちです。モノの破損・損傷に対する補償もトラブルの原因になります。シェアする資産そのものの安全性や品質が担保できていないこともあります。
トラブルの回避策としては、たとえ対個人の取引でも、責任の所在を明確にする契約書を交わすことが重要になります。
②シェアサービス利用者以外への影響
法整備があいまいなまま取引しているサービスもありトラブルのもととなっています。 サービス利用者以外の、例えば「民泊」施設の近隣住民や周辺環境のごみ問題や騒音などのトラブルが問題視されていましたが、シェアサービスの認知が進むにつれ、ルールづくりなど改善努力が実りトラブルは減少しています。
③人材管理、柔軟な基盤整備が今まで以上に重要になる
プロフェッショナルな人材の獲得競争の激化が予想され、プロのアウトソーシング人材を柔軟に活用できる、変化に即応した組織形態や人材マネジメント、評価制度、報酬制度などの基盤整備が急務となります。
利用時に場当たり的に補完するのではなく、シェアリングエコノミーの利用を前提に、給与体系(報酬制度)や評価制度を再構築しておくことをお勧めします。
本章では、雇用・労働市場における新たな考え方であるワークシェアリングについて、そのメリット・デメリット、人事業務における活用法を解説します。
ワークシェアリングとは、労働者同士で仕事や勤務時間を再配分することで雇用人数を増やしたり、偏った労働環境を改善したりする考え方を指します。 注目された背景として、「経済市況の悪化により失業率が高くなった」、「過重労働による過労死が社会問題化した」といったことから、一人当たりの仕事量の減少や、個人の負担を軽減させるワークシェアリングの導入が進みました。
①コスト削減を実現
ワークシェアリングによる労働時間の短縮や振り分けで、深夜残業や休日出勤をなくし、人件費や光熱費などのコスト削減が実現します。
②マンパワーにより迅速な対応を実現
ワークシェアリングにより、個々の労働者は時間および心身的な余裕ができるため、急な追加業務や新規の業務依頼に対して迅速に人材を配置することが可能となります。
③従業員満足度の向上
ワークシェアリングは現在ある仕事を基準にシェアするため、市況が悪化した場合でも雇用は維持されます。リストラといった事態は回避できることから、従業員の企業に対する信頼は向上し、満足度も向上します。
④企業のイメージアップ
ワークシェアリングの実施で、「多くの雇用を実現している企業」「リストラを行わない企業」「従業員が余裕をもって仕事のできる企業」という社会的な評価が広まれば、企業イメージを向上させることが期待できます。
①既存制度の見直しが必要
時短勤務とフルタイム勤務との給与や時間の調整、業務体制や指示命令系統など現在の制度の見直し、または新設が必要となります。新制度により働き方や日々の過ごし方まで変化するため、混乱や従業員のストレス増加も予想されます。
②賃金格差の発生
ワークシェアリングが適用できる仕事とできない仕事がある場合、シェアすることで給与が減る人と減らない人で格差が生じる可能性があり、従業員の不満、モチベーション低下を招く恐れもあります。
③社会保険料や福利厚生など、企業負担コスト増加
コスト削減のメリットを前述しましたが、一方で雇用数を増やすことで社会保険料や福利厚生費、教育費が増加し、結果的にコスト増になる可能性もあります。
④従業員間の連携不足が生じる
一人当たりの仕事量を減らし従業員を増やす場合、従業員間のコミュニケーションが減少し、連携がうまく取れない可能性があります。
いずれのデメリットも、次章「ワークシェアリング導入におけるポイント」の各項を実践していただければ、改善・回避できると思われます。ぜひ参考にしてください。
ワークシェアリング導入の流れ
①目的の明確化、現在の業務の把握
ワークシェアリングをなぜ導入するのか、さまざまな目的が想定され、それに応じて必要な施策も異なってきます。何が課題なのかを明確にし、現状がどうなっているのかを分析しましょう。
②ワークシェアリングが可能な業務を見極め、見直す
現状分析したうえで、その業務をどのように改善できるかを検討します。業務をどう分担するか、給与はどう変更するかなどワークシェアリングの内容や実施計画について、当該部署の管理職にも一緒に考えてもらいましょう。
③ワークシェアリング実施マニュアルの作成
誰がどのような仕事をするのか、統括者は誰かなど、業務内容を明確化したマニュアルを作成し、従業員に対して十分な説明を行い周知しましょう。
④業務評価を実施し、進捗確認する
導入後は定期的に業務を振り返り、進捗状況、目標達成度の確認・評価を行いましょう。 目標となるKPI(key performance indicator)を定めて効果測定や評価を行うとよいでしょう。
従業員に不公平感を抱かせないように、時間的な余裕を持つことで生産性を向上させ、結果として働きやすく利益を生み出しやすい職場環境をつくり上げることが大切です。
不公平感を生み出す要素は、
・フルタイムと時短勤務の給与の差
・在宅勤務と通勤、または出社する人の不公平感
・作業量・業務量の多少による負担感
などが挙げられます。いずれの場合も、公正・公平のバランス感覚がキーとなります。
本稿では、個人のスキル・労働力を分け合う「シェアリングエコノミー」、仕事を分け合う「ワークシェアリング」の2つの概念が働き方を大きく変えていき、企業が導入することで雇用・労働環境の改善が期待できることを解説してきました。
いずれもシェア・分配することでスキルを活かし、生産性を向上させ、働きやすさを追求するために活用されるものです。また、人事業務にも導入にあたりイノベーションが起こります。 本稿が、導入を検討されている人事担当者のみなさまの理解を深める一助となれば幸いです。
この記事を書いた人
大学を卒業後、関西の広告代理店へ入社し、営業として求人媒体の広告販売や雑誌メディアの広告販売、SPツールの企画、提案、制作進行管理を4年ほど経験。クライアントは地元関西の企業や飲食店、美容室などがメインでほぼ新規での営業を経験。その後、クリーク・アンド・リバー社へ転職し、13年...