公開日:2023/02/20
変更日:2024/08/29
企業がDX推進を加速させ、企業成長を図っていくうえで大きなカギとなるのがリスキリングです。ビジネスモデルの転換や業務の効率化を図るには、新たに必要となる人材像とスキルセットを明らかにして、既存の社員たちが新たな環境でも資質・能力を発揮できるよう、スキルを再構築する機会を提供することが重要です。
国内の有名企業でもリスキリングを急ぐ背景には、専門知識を有する人材を外部から採用するだけでは困難なため、自社の社員を育成し、加速するDX化に対応する方向に舵を切っていると考えられます。
この記事では、リスキリングが注目される理由、導入のメリット、すでに導入・実施している企業の実例を紹介・解説します。
本章では、リスキリングの意味するところ、そして注目される理由を紹介します。
「リスキリング(Re skilling)・学び直し」とは、「企業が従業員に対して新しいスキル、技術を身につけさせることで、新たな価値、サービスの創出や生産性の向上、ひいては従業員の市場価値の向上につなげること」と定義されています。企業においては、将来的な価値を想像できるように従業員の能力やスキルを再開発することが導入の目的となっています。
DX推進が急激に進む現在、国内問わず、世界中で企業間競争が激化しています。そうした状況のなか、新たなデジタル技術を導入し、業務の効率化、生産性の向上を図ることは企業成長に必要不可欠となっています。しかし、DX人材が不足している日本では、企業自らリスキリングで人材育成することが求められています。
参考記事:DX隆盛の時代に欠かせない「リスキル」。その必要性に迫る。
DX推進による業務の機械化、自動化などで人員削減の対象となる職種も発生し、企業が雇用を維持するために、従業員の新たな能力を開発していく必要性が出てきています。これらの変化に対応するために、リスキリングによるスキルアップ、キャリア形成の重要性が高まっています。
2020年のダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)で、「リスキリング革命」が主要な議題に上り、第4次産業革命に伴う技術変化に対応するため、「2030年までに全世界で10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」という内容で合意が得られました。2022年10月、岸田内閣総理大臣もリスキリングのための支援制度を総合政策に盛り込む考えを表明し、今後5年間に1兆円を投じ、「人への投資」「企業間の労働移動の円滑化」のための施策を新設・拡充すると積極的な姿勢を見せています。
本章では、リスキリングを行うことで得られるメリットを紹介します。
不足するDX人材を採用しようとしても、現在の採用市場では困難とされています。既存の社員にリスキリングを行い、必要なスキルを身につけてもらうことは理に適っています。
社員に学びの機会を提供し、キャリア形成の支援を行うことは、エンゲージメントの向上につながります。エンゲージメントが向上すれば、生産性も向上し業績アップにも貢献することが期待できます。
社員には自分で新たなスキルを習得しようというモチベーションが生まれます。自発的に考えられる「自律型人材」が増えることで、イノベーティブな組織風土が醸成されます。
本章では、リスキリングの主な形式を4つ紹介します。
WEB会議ツールを用いたオンライン形式で研修を行います。リスキリングの場合、自社の社員が講師を務めるケースが多いのですが、より専門的な内容を学ぶ場合は外部講師を招くのがよいでしょう。
対象の社員は、10~60分程度の研修動画を視聴し、各自で学習を深めます。自分の都合の良い時間に学べるので、社員には既存業務に影響を及ぼさない学び方として人気があります。
社員に向けた学びの場として、企業内大学を開設します。講座の形式はオンライン/リアル/ハイブリッドなどがあります。会社独自のカリキュラムを組み、集中的に学習するため効果の高い形式といえます。
グループワーク形式でワークショップを行います。社員はコミュニケーションを取りながら学ぶため、モチベーション向上にも効果的です。
本章では、リスキリングに積極的な施策を打ち出し、取り組んでいる企業を紹介します。
2020年度経営方針説明にて、社内DXのさらなる推進のため、従業員のDX人材への進化と生産性の向上という目標を掲げ、2022年3月、DXを加速化するための人事施策を発表。以下の施策を通してDX人材の育成に注力しています。
①ビジネスプロデューサーへの変革
②適材適所の実現に向けた人材の最適配置
③期間を限定したセルフ・プロデュース支援制度の拡充
また、パーパス実現のためのひとつの課題として「社内DX」を定義し、「データドリブン経営強化」「DX人材への進化&生産性の向上」「全員参加型、エコシステム型のDX推進」に取り組んでいます。価値創出のためのリスキリングを推進し、マーケット分析やDX構想策定力、デザイン思考を座学で学ぶことに加えて、実際のDXプロジェクトに参加する実践的な内容も組み込まれています。
2018中期経営計画で、デジタル技術を活用した社会イノベーション事業を推進することを掲げ、グループ全従業員16万人を対象とした教育・研修制度の確立を進めています。子会社の日立アカデミーと連携し、「デジタルリテラシーエクササイズ」という教育プログラムを作成し、2020年4月より、eラーニングによる社員教育を開始。2022年10月に「学習体験プラットフォーム」を導入。約1.6万の講座や外国語の習得プログラムを受講することができます。
2020年から、アプリエンジニア、内製化エンジニア、データ分析の研修プログラムを用意し、社内公募で参加を募る形でリスキリングがスタート。2021年に「CS(クレディセゾン)DX戦略」を策定。2024年までにDX人材を1000人まで増やす目標としています。
参考記事:デジタル人材採用・育成を外部からの一般採用と社内公募によるリソースで育成。 ~クレディセゾン小野氏
参考記事:DX推進のカギ『クセのある、とんがったデジタル人材を、いかに採用し、いかに定着させていくか』。~クレディセゾン小野氏
2018年に自社の研修施設「CIST(Canon Institute of Software Technology)を開設し、さまざまな部署の社員を対象にリスキリングを推進しています。特徴的なのは、研修型キャリアマッチング制度の導入です。入社3年が経過した社員が、人事との面談を経て3~6か月間の研修を行い、研修後新しい部署に社内転職するものです。社員のスキルアップ・キャリアチェンジにつなげるだけでなく、社員を適材適所に配置する業務効率化・生産性向上を図れる効果的な施策といえます。
博報堂の企業内大学「HAKUHODO UNIV.(博報堂大学)」では、2022年にリスキリング施策として、システム、データ分析、プログラミング、デジタルマーケティングなど約200種類の講座を新設しています。社員が受講したい講座を自由に選べるため、従業員エンゲージメント向上にも効果的な施策といえます。
2022年にDX推進戦略を発表。特定の部署や職種に限定せず、「社員全員がDXに関する知識を得ることが重要」と考え、グループ内社員約4000人を対象とした大規模なリスキリング施策を実施しています。
DX研修は、次の3ステップに基づき行われます。
①全社員ステップ→DXやITに関する基礎知識(eラーニング)
②サポーターステップ→さらに専門的な内容(eラーニング)
③リーダーステップ→リアルな研修を通してDXビジネスデザイナー、DXテクニカルプランナー、ITテクニカルプランナーを育成
2021年度~23年度の中長期計画において、既存事業4つのほかに、デジタル事業を5つ目の事業の要とする方針を打ち出しました。新たな顧客の創造として、リアルデータプラットフォーム(RDP)=(グループが保有する顧客データや社内外の現場のリアルなデータを分析するためのプラットフォーム)構築に注力し、全従業員をDX人材へ育成する施策を開始しました。DX人材の育成と併せ、自律的なキャリア形成を促進することで、生産性の向上と働き方改革を行う目的も含んでいます。
2020年中期経営計画において、「DXビジネス人材育成プログラム」という社内教育制度を始動させています。2026年~2030年の間に全従業員をDXビジネス人材化する予定で、人材育成などのDX推進の取り組みをベースにAIを導入した物流プロジェクトやフードテック企業と連携した新しいビジネスを創出することを目指しています。
この記事では、リスキリングを実施する意義やメリット、注目される理由、導入・実施している企業を紹介してきました。
新規事業の立ち上げや事業拡大による売上の向上、既存事業のブラッシュアップなど、企業が激変する時代に成長をし続けるためには、リスキリングを推進し、いかにDX人材を育てていけるかが、カギを握っているといえます。
この記事が、みなさまのリスキリング推進に役立ち、後押しすることを願っています。