公開日:2022/08/30
変更日:2024/08/29
日本は世界に名だたる長寿国とされています。しかし、それを支える医療分野はさまざまな課題を抱えています。医療の質的な向上はもちろん、高齢化社会に伴う医療費の増加、また、最近は介護離職も社会問題となっています。
これらの問題解決策として期待されているのが、最新のICTを活用して革新的なサービスを生み出す「ヘルステック」です。いま、ヘルステック業界にはベンチャーやスタートアップ企業、異業種からの参入が続き、新たな価値・サービスを開発・提供しています。
この記事では、ヘルステックが注目される背景、市場の動向、製品・サービスの実例などを紹介していきます。
本章では、ヘルステックの定義、その注目される背景を紹介します。
「ヘルステック(Health-Tech)」は「ヘルス(Health)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語であり、AIやモバイルデバイス、ウェアラブルデバイスなどのテクノロジーを活用した、病気の予防や治療および健康維持に関わる製品・サービスを指します。
ヘルステックは人々の健康な暮らしを支えるカギとして近年注目され、市場規模も年々拡大しています。
①2025年問題
2025年は、第一次ベビーブームで生まれた人が75歳以上の後期高齢者になり、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になるといわれています。そこで浮き彫りになるのが医療費の増大という問題です。
ヘルステックを活用し健康を維持・管理すれば、健康寿命を延長できる可能性があり、医療費を軽減することも可能となります。
②予防医療に対する国民の関心度・注目度の向上
人間ドックや健康診断をはじめ、運動や食生活の見直し、睡眠の改善、予防歯科、予防接種、ダイエットなど、国民は何らかの取り組みを行っており、ヘルステックへの関心度・注目度は高いといえます。
③健康経営の推進
企業が健康経営に取り組むことで、福利厚生代行サービスやメンタルヘルスサービスなど、ヘルステック関連事業者が増加します。
④利用者(企業、団体、個人)の多様化
ヘルステックは利用者となる企業や個人の種類が多様化しています。
医療機関、医療機器、製薬会社、一般企業、政府機関、教育研究機関、一般消費者など取り扱うシーンが増えると波状的に市場も拡大します。
⑤ストレスチェックの義務化
2015年12月から、従業員が50人以上の企業では、年1回の「ストレスチェック」を実施することが義務化されました。労働者のメンタルヘルスの不調を予防するため、ヘルステックサービスを利用する事業所が増加しています。
本章では、ヘルステックの分類と具体的事例を紹介します。
生活習慣病によって発症リスクが高まるとされる糖尿病、高血圧、脳梗塞などの疾患を、ヘルステックで未然に防げるようになれば、健康的な生活を長期的に維持しやすくなります。
<予防に関する製品・サービス>
①スマホdeドック:KDDI株式会社
わずか0.065mlの血液で、一般的な健康診断と同等の検査を自宅で受けられる血液検査キット。検査結果をスマホやPCなどのデバイスで確認できます。
②VitaNote:株式会社ユカシカドが提供する
ユカシカドが提供する尿検査キットは、尿から体の栄養状態を把握でき、検査結果をWEB上で確認できます。15種類の栄養素のうち、どの栄養素が不足しているか、不足した栄養素をそれくらい補えばよいかを提示してくれます。
③LASHIC:インフィック株式会社
インフィックが提供する高齢者見守りシステム。居室内の温度や湿度、照度や運動量・動きなどの情報を離れた場所からチェックできます。さまざまなセンサーを駆使して、高齢者の安全を守ってくれます。
従来の医療では軽減しにくかった患者や医療従事者の負担をヘルステック導入で改善するものです
<治療に関する製品・サービス>
①DDS(Drug Delivery System):株式会社ナノエッグ
皮膚科学に基づいて医薬品や化粧品の開発する「ナノエッグ」社の製品。
薬剤や有効成分をナノカプセル化して皮膚から浸透させ体内に送り込みます。将来的には注射針を使わずに薬剤を投入できるようになると期待されています。
②メディカルケアステーション:エンブレース株式会社
医療や介護の現場で多職種をリアルタイムに連携させ円滑なコミュニケーションを実現するツール。医療・介護に携わる人だけでなく、患者や家族もスマホやタブレットを使って簡単に利用できるメリットがあります。
③デジタルメディスン:大塚製薬株式会社
錠剤に微小なセンサーを埋め込み、服薬状況を把握できます。薬の飲み忘れを防いだり、薬剤を適切に作用させて治療効果を高められるようになると期待されています。
健康を長期的に維持できるシステムやサービス。
<健康維持に関する製品やサービス>
①FiNC:株式会社FiNC
チャットポットを利用することで、AIがユーザーの食事や睡眠、運動状況などの生活習慣を情報収集し、分析したデータに基づいて適切な食事メニューやフィットネスメニューを提案するヘルスケアアプリです。
②CareKit:Apple Inc.
症状のモニタリングや服薬管理などをスマホを通して手軽に行えます。健康状態の推移を簡単に把握できるヘルスケアアプリです。医療従事者への情報提供としても活用できます。
「X.SINCE」:ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
ソニーネットワークコミュニケーションズが、2021年4月、短期間でヘルスケア関連サービスの開発・立ち上げができるプラットフォームとして発表。
自社で一からつくるよりもコスト・制作期間を削減できます。
本章では、医療分野において今後成長・拡大が期待されるサービスと、サービスを展開する企業に必要な人材像を紹介します。
①遠隔診療サービス
通院できない在宅患者が遠隔地にいる医師に診察・診療してもらうサービス。診察予約から問診、診療、処方箋や薬の受け取りまで一連の流れをスマホで完結できるサービスもあります。
②AIによる診断支援や病気進行の予測
CTやMRI、内視鏡の画像を分析し、AIが画面上で異変と思われる個所を指摘することで病気の有無や進行の把握を支援するサービス。
また、健康診断のデータや現在の治療内容を時系列的に分析し、その患者が将来発症する確率や発症後の進行などを予測したり、担当医に介入の必要性を示したり、ユーザーに服薬や行動改善を促す機能もあります。
③QOL向上にも役立つ「IoMT(Internet of Medical Things)」
「IoMT」は、さまざまな医療機器やデバイス、ヘルスケアシステムをインターネットでつなぎ、リアルタイムでの医療・健康情報の収集や解析を可能にする技術や概念を指します。
医療機器に「Wi-Fi」「Bluetooth」を搭載し、医療情報をヘルスケアシステムとネットワークで結び、ビッグデータを収集することで、新しい治療方法や医学的知見を得られます。集積されたデータは治療だけでなく予防や健康維持、介護にも役立てられます。 蓄積された広範なデータを利用することで、治療後の患者のQOL向上にも貢献します。
④利用者に寄り添う「介護支援ロボット」
介護支援ロボットは、次の3種類に大別されます。1.介護支援型=移乗・入浴・排泄など介護業務の支援 2.自立支援型=歩行・リハビリ・食事・読書など介護される側の自立を支援 3.コミュニケーション・セキュリティー型=利用者とコミュニケーションをとることで、メンタルケアや見守りに活用。
いずれも介護の現場で用途に応じて活用されています。
⑤「ウェアラブルデバイス」の活用
身につけることでバイタルデータを日々自動的に記録できるウェアラブルデバイスは、患者の体の状態を可視化し、医師の治療方針判断などに貢献しています。
日々の体調管理で予防が進めば、結果的に医療費抑制にもつながります。
医療機器メーカーやプラットフォーム事業として実績を残してきたヘルステック企業の多くが、オンライン診断の解禁など医療業界の変化に合わせて、医療のDXに新たなビジネスチャンスを見出しています。
これからのヘルステック企業で重要視されるのは、IT×ナレッジ・スキルはもちろん、これまでさまざまな業界でプロダクト開発やDX推進に携わった経験をもち、ユーザーエンゲージメントを意識した事業戦略から製品設計・プロダクトマネジメントまで完遂できる人物と言えるでしょう。
この記事では、ヘルステックの定義から、成長が期待される背景、具体的な製品・サービス事例、今後の成長が期待されるサービスおよび人材像などを紹介してきました。
クラウドコンピューティング、スマホなどのモバイルデバイス、AI、IoT、ウェアラブルデバイスなどの技術を活用し、これまでは存在しなかった革新的なサービスが出現していることがお分かりいただけたと思います。
ヘルステックは仕事を通して、社会的な課題を解決したり、人の健康を支えたりすることで人生の充実や幸福に貢献する業界と言えます。本記事を通じて、医療や健康にかかわる分野は幅広く、ゆえに求められる人材も多種多様であることがお分かりいただければ幸いです。