公開日:2022/01/26
変更日:2024/08/29
前回に続き、「CSDX VISION」を掲げ、デジタル時代を先導する企業を目指す株式会社クレディセゾン(以下クレディセゾン)にあって、デジタル人材の採用・育成に独自の手法で取り組み、成功を収めている小野様と、クリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)で、デジタル人材の採用において多くの企業を支援してきた執行役員 渡辺の対談企画を実施。
後編では、デジタル人材採用現場における、面接フェーズでの心得、入社後の定着やDX推進における取り組みなどを語っていただきました。
目次
小野
よくカスタマーエクスペリエンス(CX)とかエンプロイーエクスペリエンス(EX)と言いますが、同じように転職者エクスペリエンスもあるはずだと私は思っているんです。
渡辺
キャンディデートエクスペリエンスですね。
小野
この言葉は前からあるんですか?
渡辺
いえ、いま思いつきました(笑)。が既に存在する言葉を思い出しただけかもしれません。
小野
そうなんですね(笑)。これ定着するかもしれませんね。
とにかく、キャンディデートエクスペリエンスですが、私の場合ブログで募集して、エントリーしてみたら私から直接即レスが来て「来週にでもおいでよ」となるわけです。その対応が応募者からすればエクスペリエンスとして面白かったということもあるでしょうね。
自社に興味を持ってくれた人が目の前にいるのだったら、その人の視点に立ってエクスペリエンスの向上にも注力するべきでしょう。
渡辺
キャンディデートエクスペリエンスという観点では、C&R社もお客さまに候補者とのコミュニケーションについてアドバイスさせてもらっています。面接時にソファーや椅子にふんぞり返って話しているなんていう、とくに幹部経営層の人がまだいっぱいいるんですね。まずそこから変えましょうかみたいな(笑)。小野さんはキャンディデートエクスペリエンスについて、他に思うところはおありですか?
小野
ふんぞり返っての面接では、その時点でキャンディデートエクスペリエンスは最低でしょうね。デジタル人材の採用で、いろいろとご相談いただいたりすることもある中で、課題となる「3つの壁」があると思っています。
1つ目は「母集団形成ができない」、2つ目は「面接フェーズでの辞退」、3つ目が「早期離職」です。いかに集めて、面接の局面できちんと対応できて、入社後しっかりと馴染める環境をつくれるかの3つです。それぞれのところでエクスペリエンスを考えていけば、対処法はあると思います。
母集団形成はSNSを使ってトップが直接呼びかければ、「おっ!」ということになる可能性は高い。面接では、とくにデジタル人材は一般的な面接の常識・定番のやり方では計り知れない人が多いことを理解しておかないといけないですね。なかには社名も覚えずに面接に挑むツワモノもいました(笑)。とにかく形式的な質問では彼らにはまったく響かないです。
それよりも、「一番自慢できる作品はなんで、どんなところに特長がありますか?」というような、本人の一番大切にしている部分を引き出してあげることが勘所ですね。付け加えれば、面接官のITに関するリテラシーが低くて、技術的なことをどう説明しても解ってもらえず、「こりゃダメだ」と辞退されてしまうケースもありますから、面接ではITリテラシーを多少持っている人が同席することも必要だと思います。
渡辺
面接官のリテラシーの低さが原因で内定辞退されてしまうケースは、当社の案件でもありますね。先日、某会社の人事担当責任者との話で、その会社がデータサイエンティストを採用するのに、自分が理解していないとジャッジしようがないからと、自らプログラムやアルゴリズムを書けるところまで勉強したという人がいました。そういうマインドのある採用担当がいる会社はやはり採用力が高いですね。
小野
そういうこと本当に大切ですよ。誰かにやってもらえばいい、自分は分からなくてもいい、というのは、その時点で本気じゃない。そのチャレンジ精神、学ぶ意欲は多分候補者にも伝わるので、それだけでもだいぶ違うと思いますね。面接フェーズのことでまだいくつか話しておきたいのですが、私も面接は何百回もやっていますけれど、自分は面接官として相手を審査・チェックする役柄だとは思っていなくて、アトラクト担当だと思って臨んでいるんです。
面接を応募者の選考の場だと考えている会社が多いと思うんですけれど、いまの時代、とくにデジタル人材は逆じゃないかと。スキルのある人なら引く手あまたでしょ、逆に応募者が会社を選べる時代なんですよ。ふんぞり返って応募者を問い詰めるなんて最低で、「面白い面接だった、自分のことをよく解ってくれた」と優先度をアップできれば私の役割としては成功。だからアトラクト担当を自認しているんですよ。
それからもう1点、これは3つ目の「早期離職」にも関わるのですが、面接時に自社の強みだけ強調するのではなく、ちゃんと弱みとか課題としている部分も伝えることも大切です。入社した後に、事前期待値に対してギャップがあったということが原因で定着しないこともありますからね。
渡辺
そうですね、会社側が選んでいる姿勢、上から目線ではなく、候補者のエクスペリエンス向上の視点に立つこと、お互いが等身大の自分を見せあうことが面接フェーズでの辞退をなくす肝となる。そこに関してはまったく同感なんですけれど、ひとつ気になったことは、面接は小野さんだけで完結してしまうのですか? いくら任されているとはいえ、スタートアップ企業ならまだしも、クレディセゾンという規模の会社で、1人の価値観だけで採用が決定してしまっていいものなのかと。
小野
これまでのブログでやっていた2年間は、いわゆる面接は私が最初で最終という感じですね。あとは待遇条件や福利厚生面など確認事項もあるし、さすがに私以外と会わずに入社は良くないと思うので、人事面談は必ず入れます。
でも、最近はなくなりましたが、人事は総合職採用と同じような感覚で質問するんですよ。当社のビジョン、ミッション、バリューのどんな点に共感されたのですか? みたいな。ところがデジタル人材はそこのところは全然興味がないから、うまく答えられない。
さきほど言ったような、会社名すら分かっていない応募者など、人事からするといままでの常識からしてあり得ないわけです。
渡辺
でも採用される。それが許される会社ってまずないですし、エンジニアにも当社のどんなところに興味をもって、共感して応募してきたのですか、という質問はほぼ100%。される企業が多いですね。
小野
これまでの概念・常識とは異なること、活躍できる基準、技術的なレベルといったところを私に任せることは定着してきましたけれど、「さすが人事!」と私が学習させてもらったことも多々ありますよ。私の感覚でそんなこといいでしょ、というところで人事は「さすがにこの部分はもう一度確認させてください」と言ってきて、その懸念が当たったケースが何度もあるんです。そこは私だけでは到底およばないところでした。
渡辺
法律も含めて、雇用リスク、労務リスクという観点での懸念、すり合わせなんでしょうね。やはり企業として最低限守らなくてはならないラインもありますからね。それを聞いて安心しました。さて、3つの壁の3つ目「早期離職」については、どのような考え、対応策をお持ちなんですか? 私たちへの相談でも入社後どうやって活躍してもらうかというものが多いです。定着という意味では単に居てくれればいいというものでもありませんしね。
小野
デジタル人材はとにかくクセのある、とんがった人が多いためか、入社後の定着という部分で悩みがつきないだろうと私も思います。原因はいろいろあるのですが、一番多いのはスタートアップ系とエンタープライズ系のエンジニアがぶつかり合ってしまうケースですね。
クレディセゾンの「CSDX VISION」では、バイモーダル戦略と銘打って、従来の守り・安定性重視=モード1とスピード・柔軟性をもった攻め重視=モード2の共存でDXを推進する方針なのですが、やはりこの両者は価値観も常識的なところも全然違って対立してしまうんです。プロパー社員とぶつかることもあるし、デジタル人材同士で喧嘩することもある。この対立をしっかりマネジメントしないと辞めてしまう可能性が高くなります。
この図式はDXを進めるどの会社にも当てはまりますね。私の場合は、どちらが良い悪いではなく、とにかくバイモーダル戦略は両方必要だから両方ともリスペクトしようとなだめるのですが、「HRTの原則」で説得するのが一番効果的でした。
渡辺
Google社のなかで実践されている「HRTの原則」ですね。HがHumanity(謙虚さ)、RがRespect(尊敬)、TがTrust(信頼)、を表していて、アメリカの会社が標榜した言葉としては、日本人にも馴染みやすい感じがします。
小野
たとえば「2021年にもなって、いまだにレガシーシステム使ってるのか?」みたいな発言は、謙虚じゃないしリスペクトもない。発言としてよくない、「HRTの原則に反するよね」と私はつねに言っています。部下たちも最近は「それHRT!」ってリアクションするようになってきて、徐々に根付いてきている。
日本の歴史ある会社はモノシリック(単一的)な、価値観の近い人を集めがちだったと思うんです。先輩が、先人たちから受け継いできた成功体験を後世につないでいくみたいな。
それをDXで改革し、異なる価値観とかスキルセット、バックグラウンドをもつ人を集めてダイバーシティを実現しようとすると、やはりぶつかることは避けられないんです。
会社としては異なるものをインクルードしていたほうが強い。何かあったときにどちらにも行けるし、両方の視点を踏まえたうえで判断もできますから。対立をいかにマネージして緩和するか、それがうまくできれば人材が離れていくことはなくなると思います。そのマネージメントの肝が「HRTの原則」なんですね。
渡辺
みんなが備えておく素養ということですね。その上に立って異なる2者の共存、バイモーダル戦略も成り立つと。いま、日本の企業は同質性を高めている感じもしますね。採用面接で、この人コンフリクト(対立)起こしそうだからという理由で落としているケースがけっこうあります。多様性と言いながら、世の中の風潮に流されて言っているだけで、本質的にそこを求めていない企業が多いと感じますね。残念ながら。
小野
そこは、日本企業がいま真剣に乗り越えなくてはならない壁だと思いますね。
人体は複雑な身体を健やかに保つために、体内に侵入した異物を排除する免疫系というシステムを体内に持っています。大きな企業はそういった部分がどうしてもある。でもDXではそこを変えていかなくてならないし、異物をも受け入れる組織になっていかないと生き残れないと思うんです。逆に応募者も、そういうなかに入っていく覚悟も必要で、双方にそういった異なるものと対立するのではなく、肯定的に向き合う姿勢が必要になると強く思います。
渡辺
小野さんが、いまおっしゃってこられたようなカルチャーを社内に根付かせるために、どんなことをされてきたのでしょう。
小野
私自身が異物なので、普通なら排除される側の人間なので(笑)、自分自身特別なことをやっているつもりはないんですよ。クレディセゾンという規模の割には柔軟な許容性に富んだ組織に感謝ですね。繰り返しになりますけれど、価値観の異なるものを攻撃したり否定したりせずに、2者あったら双方の融和と共存を求めていく、「HRTの原則」でなくても、その会社なりのコミュニケーションスタンスが何かあるはずなんです。それが共有できさえすれば何とかなりますよ。
渡辺
最後に、私の経験で内定辞退や離職理由で、自分のスキル・能力をちゃんと見定められていない、技術やデザインなどの価値を会社が評価しない、というものが多いのですが、御社ではデジタル人材の評価はどうされているのでしょう?
小野
クレディセゾンには、私が入社する前から、総合職と別のスペシャリスト職向けの評価制度やキャリアパスがあって、そのおかげでデジタル人材に対して特別に何か用意することはなく助かりました。
自分の価値が理解されているのかについては、上司が1on1で定期的に面談してコミュニケーションをとって、ちゃんと見ているよと伝え続けること。その辺が当たり前にできていれば定着すると思います。キャンディデートでもエンプロイーでも、相手の立場に立ってエクスペリエンス向上を丁寧に行うことが、基本にして最終奥義なんだと思いますね。
本稿では、クレディセゾンのDX推進のためのデジタル人材採用活動を題材に、採用手法から面接の心得、入社後の定着にいたるまで幅広く語っていただきました。
クレディセゾン・小野様の、ある種先鋭的な手法はさておき、普遍的な意味で、転職者エクスペリエンスの向上なくして採用はかなわない、採用の本気度をトップが示す大切さ、異なる価値観の排除ではなく融和・共存がDX推進のカギを握るなど、デジタル人材採用およびDX推進のポイントとなる内容が満載でした。
この対談を参考に、厳しいデジタル人材の争奪戦を勝ち抜いていただければ幸いです。
デジタル人材採用・育成を外部からの一般採用と社内公募によるリソースで育成。 ~クレディセゾン小野氏×C&R社渡辺 対談~