公開日:2022/01/11
変更日:2024/08/29
2020年1月に日本経済団体連合会(以下:経団連)がSciety5.0時代にふさわしい雇用システムとして、「ジョブ型雇用」を提示したことを契機に、日立製作所や富士通など経団連加入の大手企業を中心に「ジョブ型雇用」を導入する企業が増加している傾向にあります。
しかし、「ジョブ型雇用」は欧米ではスタンダードな雇用形態ですが、これまで「メンバーシップ型雇用」を踏襲してきた日本企業が、いきなり「ジョブ型雇用」に180度転換することは、かなりハードルが高いと考える企業も少なくありません。
この記事では、「ジョブ型雇用」というバズワードに惑わされないように、導入にあたってのメリット・デメリット、日本企業に合った「ジョブ型雇用」の形態などを解説していきます。
本章では、「ジョブ型雇用」が注目される背景、導入した場合のメリット・デメリットなどを解説します。
○ジョブ型
採用は、あらかじめ業務内容、求める能力、労働時間、勤務地などを明確に定めたうえで行います。従業員は、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」に定義された職務の範囲内の仕事に責任を持ちます。企業は定められた職務以外の配置転換はできませんが、その職務がなくなった場合契約を解除することができます。
○メンバーシップ型
新卒一括採用、終身雇用、年功序列などが前提とされる日本企業で古くから取り入れられているシステムです。ポテンシャル重視で採用後、異動や転勤を繰り返してキャリアアップしていく仕組みで、勤務地やポストは企業が人事権の裁量で決めます。従業員は業務ではなく組織への帰属意識が高い傾向にあります。
①企業経営のグローバル化
グローバル化が進む企業では、国内は日本的なメンバーシップ型の雇用形態で、海外拠点はジョブ型といった形では、国や地域を越えた人材の獲得・活用がしにくくなります。グローバル競争を勝ち抜くためには海外拠点と共通の人事制度が望ましいという観点からジョブ型導入が浮上しています。
②デジタル人材の獲得・育成
DXを推進するデジタル人材は獲得競争がし烈です。魅力的な待遇やキャリアパスを用意しないと採用できないだけでなく、転職してしまう可能性もあります。専門志向の強いデジタル人材に最適化した人事制度が必要となり、ジョブ型雇用の導入が検討されています。
③ダイバーシティとテレワークの浸透
多様な属性の人が活躍できるように、ダイバーシティを推進する企業にとって、勤務地や職務を限定できるジョブ型雇用は適しています。また、職務内容を明確に定義して評価するため、社員が自律的に働くテレワークは評価が行いやすいと言われています。
①海外拠点と国内拠点との雇用制度の共通化
グローバル戦略を推進するうえで、国内外拠点の雇用制度統一が必要となり、その共通化により国や地域を越えた人材の獲得・活用がしやすくなります。
②役割の明確化による、生産性向上と報酬の最適化
職務内容や必要な能力、報酬が明確になっているため、従業員はやるべきことがはっきりし、仕事の満足度・パフォーマンスの向上が期待できます。また、給与体系も明確になり、報酬の最適化につながります。
③中途採用やフリーランスを活用しやすい
職務ごとに求めるスキルや経験が明確になるため、適正な職務と人材のマッチングが可能となり、経験者採用やフリーランスの活用が容易になります。また、職務を限定してキャリアを形成できるため、採用におけるアピールポイントになります。
④副業活用の拡大・活性化
副業は、本業を持ちながら、自身の任意の時間と特定の(得意な)スキルを使い別の仕事を行うことですが、ジョブ型雇用の「職務内容を明確に定義」して採用する考え方と親和性があります。雇用ではなく業務委託契約になりますが、企業側は必要なスキルを必要な期間だけ活用できるメリットがあります。
①職務記述書整備の負担増
組織内の職務を分解し、職務ごとに内容を言語化する職務記述書は、人が代わっても変わらない職務要件を整備することに多大なエネルギーを要します。さらに一度つくれば終わりではなく、技術の進歩や環境の変化、組織再編のたびに更新しなくてはなりません。
②企業主導の人事異動はできない
ジョブ型雇用では、メンバーシップ型のように企業側の事情による人事権を発動し、結果として社員にとって不本意な人事異動を発令できません。企業主導の人材活用や組織づくりの自由度が下がります。
③人材育成・キャリア形成の変革が必要になる
企業側主導のジョブローテーションによる人材育成が難しくなり、キャリア形成に対する社員の意識改革や、新たな能力開発メニューの整備が求められます。
④人材定着に課題
職務内容を明確に定義して雇用するため、例えば特定のプロジェクト推進要員として採用したものの、プロジェクトが完了した場合、別の業務・職務への異動は難しいため離職(転職)してしまい、人材(スキル)の定着、ノウハウの蓄積の妨げになってしまう懸念があります。
本章では、現在の「ジョブ型雇用」導入状況とその可否の理由をアンケート結果から読み取ったうえで、導入を検討する材料としてジョブ型雇用のバリエーションを紹介します。
パーソル総合研究所の『ジョブ型人事制度に関する企業実態調査』(企業規模300人以上の日本企業に勤める、経営者、経営企画・総務・人事担当者740名:2020/12/25~2021/1/5)「ジョブ型に対する経営・人事の意識」(図1)によると、「導入に前向き(導入済み、導入検討中・導入予定含む)」は57.6%、「今後も導入しない」は28.5%となっており、6割近い企業はジョブ型導入に前向きなことが分かります。
図1:ジョブ型に対する経営・人事の意識
また、導入する目的・狙い(図2)では、「従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい」65.7%、「戦略的な人材ポジションの採用力を強化したい」55.9%、「従業員のスキル・能力の専門性を高めたい」52.1% が上位を占めています。
図2:ジョブ型導入の目的・狙い
導入しない理由(図3)の上位は、「いまの人事制度が自社のビジネスに適合している」57.3%、「導入のメリットよりもデメリットが多いと思う」31.8%、「導入のノウハウや知識がない」26.1% となっています。
図3:ジョブ型を導入しない理由
図4:ジョブ型「検討企業」と「非志向企業」の特徴
導入に前向き企業と非導入志向企業の違いは、導入済み・導入検討中の企業は、「職務給・役割給導入」で「脱・年功序列主義」な制度運用がされており、「グローバル志向」かつ「デジタル化・IT化重視」などの特徴があることが分かります。非志向企業は、「海外支社やグループ企業はない」、「シニア従業員が多い」、「研究・開発職が多い」、「中途入社者の離職率は低い」といった特徴をもつことが読み取れます。
※図1・2・3・4の出典
パーソル総合研究所「ジョブ型人事制度に関する企業実態調査」
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/activity/data/employment.html
※上記図は出所を明示することで活用可とのことです。
経団連は、「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」のなかで、「ただちにジョブ型雇用への移行を検討することは現実的ではない。各企業が自社の置かれている現状に基づき、まずは『メンバーシップ型社員』を中心に据えながら、『ジョブ型社員』が一層活躍できるような複線型の制度を構築・拡充していくことが、今後の方向性になる」と述べています。
「ジョブ型雇用」への転換は、その必然性があり、転換に必要なマンパワーやコスト、時間を投資できる企業が取り組むべきものであると、推奨はするものの、やみくもで性急な導入は慎みたいとしています。
①人材の役割を基点とした「ジョブ型人材マネジメント」への転換
賃金配分ルールの柔軟化や成果主義の強化だけであれば、日本企業はこれまでも推進してきました。雇用の在り方はこれまで通りで、社員一人ひとりが担う役割を明確にし、期待役割と役割成果に応じて給与を支払う「ジョブ型人材マネジメント」の転換が適していると思われます。
②「ジョブ型採用」の導入
採用されてから複数の仕事を経験し、適性のある職種に就くメンバーシップ型のキャリア形成は合理的で、積極的にこれを放棄するのは得策ではないと考えます。入社3~5年の間にいくつかの職種を経験し、希望と適性を見ながら30代に特定職の経験を積み、習熟度に応じて昇給を実施。そして、一定以上の職位になれば、ジョブ型に転換し、職務・成果型の報酬体系に移行する仕組みです。
グローバル展開やDX化の進む大企業を中心に、「ジョブ型雇用」を導入する企業が日本でも増えてきています。しかし、トレンドに飛びついただけで十分な検討や社内整備も成されないまま導入しても、とん挫・消滅することは目に見えています。
この記事では、「ジョブ型雇用」とはどのようなものかをおさらいしたうえで、日本企業に即した「ジョブ型雇用」にはどんな形が考えられるかを紹介しました。 この記事を参考に、自社の状況を精査してそれぞれの企業にフィットした「ジョブ型雇用」制度を検討いただければ幸いです。
この記事を書いた人
大学を卒業後、関西の広告代理店へ入社し、営業として求人媒体の広告販売や雑誌メディアの広告販売、SPツールの企画、提案、制作進行管理を4年ほど経験。クライアントは地元関西の企業や飲食店、美容室などがメインでほぼ新規での営業を経験。その後、クリーク・アンド・リバー社へ転職し、13年...