公開日:2022/09/09
変更日:2024/08/29
スポーツに最新のテクノロジーを組み込むことで、新たなビジネスモデルを生み、スポーツ産業の発展、スポーツ参画人口の増加につながると考えられる「スポーツテック」。
すでに欧米ではその導入により、スポーツビジネスは大きな産業として成り立っていますが、日本ではまだまだ成長途上といった状況にあります。しかし、政府の働きかけも追い風となり、スポーツテックに関わる産業、企業の今後の躍進が期待されています。
この記事では、時代の最先端をいくスポーツテックの現状、関連企業動向、展望などを実用例も含めて紹介していきます。
本章では、スポーツテックの定義、成長が期待される背景を解説・紹介します。
「スポーツテック(Sports-Tech)」は「スポーツ(Sports)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語であり、スポーツに関連するさまざまな事例に導入される最新のテクノロジーやその概念を指します。
これまでは、スポーツ選手の技術的サポートや競技に関する環境改善、道具の開発に用いられるテクノロジーが主体となっていましたが、最近は、「スポーツ観戦」「スポーツに馴染みのなかった人のスポーツ参画」といった、さまざまな関連分野でのイノベーションが進み、新たなビジネスモデルの創出も相次いでいます。
スポーツテックは新しいビジネスモデルを生み出し、すでに欧米では大きなスポーツ産業として成立しています。一方、日本ではスタートラインに立ったばかりというところですが、「スポーツテックで、スポーツがもつ新たな価値を創出し、ビジネス機会の創造・拡大、社会課題の解決につなげる」べく、大手企業をはじめスタートアップ企業が次々と参入し、今後の急成長が見込まれています。
文部科学省も、2017(H29)年に第2期「スポーツ基本計画」を策定し、スポーツを「する・みる・支える」の3つの軸でスポーツ振興とスポーツ参画人口の拡大を目指すための指針を打ち出しています。
株式会社野村総合研究所の調査(2019年発表)では、スポーツテックの市場規模は2019年度310億円だったものが、2025年には1547億円に成長すると予想しています。
本章では、スポーツテックが実現する具体的な事例と、今後成長が見込まれるテクノロジーを紹介します。
①「観る」:スポーツ観戦の新たなアプローチを創る
これまでは、現地での観戦かTV観戦だったものを、スマホやタブレットの動画配信サービスで、どこにいてもリアルタイムで観戦できるようになっています。
また、試合を観戦しながら、専用アプリで選手や競技の情報を確認したり、ヘッドマウントディスプレイで臨場感を体験できます。
②「支える」:あらゆるデータを分析し、パフォーマンスの向上に貢献
ウェアラブルデバイスなどで、心拍数、走行距離、スピード、タイム/ラップなどを瞬時に測定し、データ比較でリアルタイムでの指示が可能になっています。より効果的なトレーニングが可能となり、より強い選手の育成やチームのパフォーマンスの最大化に貢献します。
③「する」:誰もがスポーツを楽しめるように
老若男女を問わず誰もがスポーツを楽しむための技術応用が進んでいます。身体を動かすことで、健康増進や予防医療にもつながり、QOL(生活の質)向上や社会課題の解決に役立っています。アスリートの身体情報(重心の取り方、筋肉の動き)を応用することで、効果的なリハビリテーションも可能となります。
④「する」:誰もがスポーツを楽しめるように
老若男女を問わず誰もがスポーツを楽しむための技術応用が進んでいます。身体を動かすことで、健康増進や予防医療にもつながり、QOL(生活の質)向上や社会課題の解決に役立っています。アスリートの身体情報(重心の取り方、筋肉の動き)を応用することで、効果的なリハビリテーションも可能となります。
①コネクティッドフィットネスの多様化
スマートフォン・ウェアラブルデバイスといった機器を使用し、運動データをWeb上で管理できたり、オンラインにつなぐことで自宅から本格的なフィットネスレッスンに参加できる「コネクティッドフィットネス」がアメリカを中心に注目を集めています。
コネクティッドフィットネス業界では大型の資金調達を行っている新興企業もあり、マシンの種類は増加傾向にあります。小型路線に走る企業や本格的な大型マシンを手掛ける企業など多彩で、グローバルなマーケット拡大競争が起こっています。
②XR/メタバースとフィットネスの新たな可能性
VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)を組み合わせて、新たなフィットネス体験を創出する企業が増加しています。ゲームを進めているうちに運動もできるといった、エンタメ・ゲーミフィケーション要素を取り込んだ注目領域です。 XR(VR/AR/MRの総称)デバイスの進化次第で一気に普及する可能性を秘めています。
③スポーツ×NFT(Non Fungible Token・非代替性トークン)/トレカの浸透
アメリカでは熱心なコレクターが特定のスポーツ選手のNFTやトレカに投資する動きが活発です。これらを取り扱うマーケットプレイスを運営する企業や、この新たなアプローチを取り入れる企業・競技団体・チームも増加しています。
④リワード(報酬)による運動へのインセンティブの創出
運動を習慣化することにより、ポイントや特典がもらえるサービスが増加しています。運動を自分の意思で習慣化するのはハードルが高いと感じる人もいる中で、新たなアプローチでその課題を解決するソリューションとなっています。
本章では、企業が実際に展開しているスポーツテックの事例を紹介します。
Sports Castが提供する、スポーツ観戦をしながら誰もが簡単に実況中継を配信できるサービスです。
直接の観戦者からの配信を通じて新たなサポーターを創出できる魅力があります。
Intelが提供するこのサービスは、VR技術を活用して、競技場内のどこにいても試合を立体的なパノラマビューで体感できます。また、自宅に居ながら会場にいるような自然でリアルな映像を観ることができ、臨場感を味わうことが可能です。VRヘッドセット、モバイルデバイス、タブレット、PCなどさまざまなデバイスに対応。
さらに、Twitter、Facebook360、YouTube360でハイライトシーンが観られます。 NBA、NFL、LaLigaなど多くのスポーツリーグで採用されています。
FORMが開発したこの商品は、水泳用のゴーグルにARディスプレイを内蔵することで泳者のトレーニングをサポートします。片面に内蔵されたARディスプレイに、スイム中の距離やタイム、スプリットがリアルタイムで表示され、パフォーマンスの向上に役立ちます。
KDDIは、スマホのカメラで撮影した映像から、アスリートの動きを分析し、効果的なトレーニングや技術向上につなげるシステムを開発しています。
指先から全身にかけて65カ所の骨格点が抽出され、アスリートの動作をリアルタイムで解析します。
ボールとスマホを連動させピッチングフォームを分析できる「TECHICAL PITCH」というシステムもあります。
アシックスとセンサーやコンピューターを内蔵した履物「スマートフットウェア」で注目されるORPHEが共同開発した、「履くだけで、足の動きをデータ化する次世代のインソール」です。走り方(タイム、ペース、着地衝撃など)の特徴を可視化・データ化し、ランナーの技術向上をサポートします。
IBMが開発した、AIによる試合のハイライト動画の即時制作が可能なソフトです。
試合終了2分後にはハイライトシーン動画を完成できます。AIが試合中の観客の歓声、選手の動きなどさまざまな要因を分析して、ベストなプレイ・シーンを選出します。
テニスのウィンブルドン、全米オープンなどで実用化されています。
本章では、スポーツテック業界に参入するため、社内に備えるべき、または社員が習得すべきスキルを紹介します。
・WEB系のC言語やJavaScript
・AIを使用した製品であればPython
・VRに関わる場合、Unity、3DCG
自らが運動することを趣味としていたり、スポーツ観戦が好きなことも重要です。ユーザー目線で向き合うことで、具体的かつ細部までユーザーのニーズに応えられることが期待されます。
この記事では、スポーツテックの定義や成長の背景、スポーツテックが実現する具体的な内容、実施に展開されている事例、スポーツテック開発に必要なスキルなどを紹介してきました。
ITを活用することで、「従来とは違った観戦体験ができる」、「スポーツをする人もデータの可視化によって効率よくトレーニングに取り組むことができる」「マッチングアプリなどのサービスを通じてスポーツ人口の増加も期待される」など、スポーツテックの有用性をお分かりいただけたと思います。
スポーツテックで、スポーツがもつ新たな価値を創出し、ビジネス機会の創造・拡大、社会課題の解決につなげていただければ幸いです。