公開日:2022/06/08
変更日:2024/08/29
DX時代の人材戦略として今、「リスキル」が注目されています。
企業がDX推進を加速させていくうえで大きなカギとなるのがリスキルです。ビジネスモデルの転換や業務の効率化を図るには、新たに必要となる人材像とスキルセットを明らかにして、既存の従業員たちが新たな環境でも資質・能力を発揮できるよう、スキルを再構築する機会を提供することが重要です。
この記事では、なぜいまリスキルが注目されているのか、その概要から必要とされる背景、導入・実施における留意点、ポイントなどを紹介・解説します。
本章では、改めてリスキルの定義と、各企業が必要に迫られている背景を解説します。
「リスキル」は「リスキリング(Re skilling)・学び直し」を指す言葉です。経済産業省の『リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―』では、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に対応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。
もう少し平易な言葉で定義すると「企業が従業員に対して新しいスキル、技術を身につけさせることで、新たな価値、サービスの創出や生産性の向上、ひいては従業員の市場価値の向上につなげること」となり、将来的な価値を想像できるように従業員の能力やスキルを再開発することがリスキルの目的となっています。
①DXに象徴される、サービスや業務のデジタル化
ここ数年、企業においてはデジタル化への対応が必須となっています。より競争力のある製品を開発し、より広く製品を販売するために、新しいテクノロジーやITサービスの活用が必要不可欠です。
これらに対応するDX人材の新規採用は困難な時代になっています。ゆえに、既存の従業員に対して、デジタル化、新たなテクノロジー、スキル、トレンドに関する教育を行い、組織的な底上げを図ることが求められています。
②企業のリスキルへの取り組みに対する、市場・投資家からの目
従業員が新しいスキルや技術を身につけるリスキルに投資することは、生産性や価値創造、ひいては企業としての資産、リターンにつながります。市場・投資家の目も、企業の将来の展望に基づいた姿勢・取り組みに向けられています。
経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書〜人材版伊藤レポート〜」では、<従業員が新しいスキルや技術習得に投資することは、企業としての資産、リターンにつながる>とリスキルを重要な視点として取り上げ話題になったほどです。
出典:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~(経済産業省)
また、そういった環境で働くことは、従業員のエンゲージメントを高める効果もあり、結果的に従業員のビジネス市場価値や処遇を高める相乗効果も生まれます。
③コア年齢層となる、40代・50代の活性化の必要性
大手企業を中心に従業員の平均年齢が40歳を超えつつあります。
このコア世代が、デジタル化・グローバル化による市場環境の変化に対応し、事業の変化や新しいサービス・業務へのキャッチアップ、関連するスキルや知識の習得に努めて、パフォーマンスや生産性を向上させることが急務となっています。企業の業績や価値の向上には、このコア世代の活性化が欠かせません。
出典:労働力調査の第18表年齢階級別正規の職員・従業員数(総務省統計局)
リスキルを実施する前に、また成功に導くために意識しておきたい事項を紹介します。
現在のスキルと将来的に必要となるスキルの可視化は必要不可欠です。自身のスキルセットを棚卸し、今できていることと未達のことをしっかりと見つめ直すことが大切です。
職種ごとに求められるスキルを特定し、常時更新し続ける仕組みづくりも求められます。それには、これまで蓄積してきた人材に関するデータベースなどを活用する、AIが有効な手段となるでしょう。
リスキルのための研修・学習コンテンツを改めて準備することが必要です。社内で準備できない場合は外部の研修・学習コンテンツを利用することも検討してみましょう。
また、リスキルで学んだことを実践で活かす機会づくりも重要です。自社内でインターンシップ、見習い制度などを活用し、リアルな現場経験を積むことが本人の体得のために有効です。
従業員一人ひとりにリスキルの重要性やリスキルによって社内外で価値を発揮できる人材に成長できるメリットを伝えることが大切です。「これからのDX時代に企業内で価値を生み出し続ける人材になるには、リスキルが必要不可欠である」ことを会社全体に理解してもらうことが重要になります。
リスキルを推進するにあたり、企業や組織が共通認識として持っておくべきポイントを紹介します。
学び直しの重要性、リスキル施策への投資や支援に対する方向性を、企業として社内外に明確に打ち出すことが必要です。
企業の重要課題や中長期計画で提示されている戦略・方針の実現を担う人材の育成にどのような形で寄与することを想定しているのか、何年後に何人をどんな事業に配置するのかといった目標やエビデンスを示したうえで、組織としての学びの文化を形成する過程、ストーリー立てが必要です。
管理職を選出、配置する際に、これまでのように「プレイヤーとして優秀」といった要素だけでなく、チームとして成果を出すことができるか、部下や後輩の成長をともに喜ぶようなメンタリティをもっているかなど、コンピテンシーの見直しが求められます。
人事制度や施策のなかで、現場の学びの促進を後押しし、管理職をサポートする体制づくりが必要です。
例えば、従業員がリスキルの効果を実感し、周囲から認められるような評価制度の充実があります。成果を出した本人だけでなく、サポートした上長も評価することで、チームとしてリスキルへの意識を高めることができます。
本章では、リスキルを導入・実施し、成果をあげている事例をいくつか紹介します。
データマッピングスペシャリストやデータサイエンティスト、ビジネスアナリストなど高度なスキルをもつ人材育成を目的とし、2025年までに従業員10万人をリスキルすると発表しています。非技術系人材を技術系に移行させる「テクニカル・アカデミー」、IT系エンジニアにより高度なスキルを獲得させる「マシン・ラーニング・ユニバーシティ」などを実施しています。
グループ内にある人材育成を総合的に行う関連会社と連携して、「デジタルリテラシーエクササイズ」という基本教育プログラムを開発。10万人を超えるグループ全従業員が、段階的に知識、スキルを身につけられるようなプログラムになっています。
従業員1500人に対して、クラウドやAIを活用した研修を実施しています。プログラミング言語やセキュリティなどのカテゴリーの、レベルごとに14系統・190講座を用意し、就業時間を使って半年程度の専門教育を実施しています。
この記事では、リスキルの定義についてのおさらいから、なぜリスキルがいま注目されているのか、リスキルを実施するにあたり準備しておくべきこと、リスキル実施・推進にあたり留意することを紹介してきました。
DX時代に企業として、また個人(従業員)として、新たな価値を生み出せる企業・人材になるためにリスキルが欠かせないことがお分かりいただけたと思います。
この記事がリスキルの導入・実施を検討されているみなさまの一助となり、実践が成功に導かれることを願っています。