公開日:2023/02/06
変更日:2024/08/29
あらゆるビジネスがプロダクトアウトからマーケットインにシフトする中、顧客起点でビジネスやプロダクトを企画・実装できるDX人材の採用が急務となっています。しかしながら、優秀なDX人材は引く手あまたであり、その採用には各社苦心しているのではないでしょうか。
そこで今回は「すべてはお客さまのために。No.1テクノロジーバンクを目指して」をコーポレートビジョンに掲げ、執行役員として経営企画や組織・環境づくりを牽引するGMOあおぞらネット銀行株式会社・細田様をお招きし、プロフェッショナル人材の採用を長年支援しているクリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)執行役員・渡辺と対談を実施。DX人材の採用のみならず、その能力が発揮できる組織や環境づくりから、トップコミットメントに至るまで、様々な施策に話は広がりました。(以下:敬称略)
目次
細田 暁貴氏
GMOあおぞらネット銀行株式会社 執行役員 コーポレートコミュニケーショングループ長
新卒で重電機器メーカーに入社。その後、テレビ番組の制作会社に転職し、複数の情報番組制作に携わる。2005年、GMOインターネットに入社し、グループ広報として様々な事業立ち上げや危機管理を担当。2017年よりGMOあおぞらネット銀行に転籍。経営企画部門とビジネス部門を兼務し、事業の立ち上げ期を支える。2020 年より執行役員。現在はコーポレートコミュニケーショングループ長として、経営企画と総務を管掌。
渡辺 和宏
株式会社クリーク・アンド・リバー社 執行役員 プロフェッショナル・プロデュース・グループ
2002年株式会社クリーク・アンド・リバー社入社。映像分野で活躍するクリエイター派遣および制作業務受託の営業に従事。その後2005年から人材紹介事業を担当。
渡辺
まずは簡単に自己紹介いたします。私は2002年にC&R社に入社以来、クリエイティブ・プロフェッショナル人材が最も輝ける環境で働けるような転職支援や独立支援に携わってきました。
私が入社した当初、C&R社はクリエイターを中心とした人材派遣や人材紹介ビジネスを主軸としていましたが、現在はクリエイターのみならず会計士、税理士、弁護士、医師、料理人といったプロフェッショナル人材も支援しており、私はその転職支援チームの責任者をしています。
細田さんは、これまでどのようなキャリアを歩んでこられたのですか?
細田
私は新卒で重電機器メーカーに就職しました。私が入社した当時で創業70年という歴史ある会社でしたので、社会人の基礎はここで学ばせてもらったと思っています。仕事も楽しくずっと続けたかったのですが、歴史があるだけに女性総合職としてのキャリアを積むにはなかなか厳しい環境でもありました。当時の上司は「お前が後進の道を切り開く存在になればいい」と相当支えてくださったのですが、堪え性の無い私は転職を決意してしまいました。今でも当時の上司に感謝しています。
その後、知り合いから誘われてテレビ番組の制作会社に入社し、ADからスタート、ディレクター、アシスタントプロデューサー、放送作家と経験しました。しかし、当時はまだまだ労働環境が整備されていない業界でしたので、思い切って次の転職になりました。転職活動の中で、全くインターネットに無知だったのですが、資格があったことも幸いしてGMOインターネットグループの1社で秘書として採用いただき、その後、過去のテレビ制作の経験から2005年にGMOインターネットグループの広報に転籍することになりました。
入社当時はまだ広報体制も整っておらず、体制整備から着手しました。入社直後の大きな案件ですと、今のGMOクリック証券の立ち上げの記者会見が最も印象に残っています。その後、ゲーム事業やアート展、陸上部創部などGMOインターネットグループの様々な事業の立ち上げに関わってきました。そして、2017年にGMOあおぞらネット銀行の事業の立ち上げに参画するため転籍し、現在に至ります。
渡辺
以前はテレビ業界にいらっしゃったんですね。私も入社当初はテレビ局を担当しており、ディレクターさんやADさんの派遣・紹介事業を担当していました。実は当社の創業者である社長が元々フリーランスの映像ディレクターで、クリエイターたちのブラックな労働環境を改善しようと、C&R社を立ち上げたのです。
当時は「クリエイターの生涯価値の向上」を理念としていましたが、ご支援する対象の広がりにより現在は「プロフェッショナルの生涯価値の向上」を掲げています。細田さんは現在、どういった領域を管掌されているのですか?
細田
現在は、コーポレートコミュニケーショングループ長として経営企画と総務を管掌しています。それ以前は立ち上げ期だったので、何でもやりましたね。インターネット業界の人脈や各業界で活躍するGMOの卒業生に「GMOが銀行を立ち上げたんだけど」と連絡するなど、営業活動もしていました。
渡辺
細田さん自らフロントに立って色々なことを手掛けていらっしゃるんですね。ところで、GMOあおぞらネット銀行さんは銀行でありながらBtoBのサービス事業者さんのような印象がありますが、自社の強みをどのように捉えていらっしゃいますか?
細田
従来の銀行はプロダクトアウト型なのに対し、当社は顧客起点で考えるマーケットイン型でプロダクトを開発しています。多くのインターネットバンキングやネット銀行は、従来の銀行機能をインターネットサービスに置き換えて提供しています。しかし、当社はインターネットビジネスを行う企業が銀行サービスを提供するという前提のもと、お客様の声を聞き、顧客体験を重視したプロダクトを内製化によりスピーディーに開発しています。最近リリースしたサービスの中にも、お客様の声から生まれたものが多数あります。
渡辺
顧客が求める体験価値が向上する中で、顧客の課題にしっかりと耳を傾けて、顧客起点のプロダクトを自社で開発して提供するというのは、とてもユニークだと思います。銀行っぽくない銀行ですね。
細田
ありがとうございます。「銀行っぽくない」は、私たちにとって褒め言葉です(笑)。
渡辺
顧客の声を聞きながらスピーディーにプロダクトを企画・開発していくには、DX人材の存在が不可欠ですね。
細田
その通りです。当社はインターネット専業の銀行ですから、エンジニアに限らず、すべての部門でDX人材が不可欠です。自社にエンジニアが多数いるからこそ、自由な発想ができますし、開発スピードも上がります。お客様のニーズを伺ってから、数カ月でリリースしなければ遅いんです。
インターネット業界はどんどん新しい技術が生まれますし、プレーヤーも同業だけではありません。その中で競争力を高めていくためにも、お客様の課題やご要望をいかにスピーディーに形にしていくか、エンジニア・営業・カスタマーサポート・マーケティングすべての部門が密に連携を取り合って進めています。
渡辺
様々なポジションの人が一緒にプロダクトをつくるとなると、それぞれの立場の「正義」が衝突することもあります。それがスピーディーな対応の妨げになっていることもありますが、貴社ではどのようにしているのですか?
細田
全員正しいということはよくあります。そんな場面で何を優先すべきかを、現場でずっと話し合っても決まりません。そういった案件は、すぐに経営にエスカレーションしてもらい、役員のいる場でどんどん決裁していきますね。だから企画~開発~リリースが早いのです。
渡辺
なるほど。しかし「銀行」というと、どうしても石橋を叩いて渡るというように、スピード感に欠けるイメージが先行し、優秀なDX人材の採用は簡単ではないのではないでしょうか。そのイメージを払拭する工夫は、何かしていらっしゃいますか?
細田
もちろん銀行ですから、慎重に進めなくてはならないことは当然に多々あります。そんな中でも当社のお客様思考のプロダクトを矢継ぎ早に出していることは、外部からはスピーディーに見えると思います。ただ、良いプロダクト、サービスを作っても知ってもらえなければ意味がない。採用も同様です。
当社はまだまだ認知度が低いのでネームバリューだけでは採用できません。そこで、情報発信の仕方を工夫しています。「こういう人を募集しています」というのではなく、「私たちは、こんな素敵なプロダクト、サービスを作っています」という仕事の成果をアピールしています。
たくさん面接をしていて感じるのは、ユーザーの反応が見たいというエンジニアの方が多いことです。当社ではプロダクトを開発してリリースするだけではなく、営業もマーケティングも自社で行っているからこそ、お客様の反応が集まってきます。最近もHPやSNSで新しい機能を発表したところ、「待ってました!」という反響を多くいただきました。こういうお声を聞くと、エンジニアに限らず、関わった人たち全てが報われ、誇りに変わる瞬間だと感じます。
また、当社では人事部だけが採用に孤軍奮闘するのではなく、社員の一人ひとりが会社の魅力をつくり、その魅力を発信するという考えが浸透しています。特にエンジニアはエンジニア仲間を呼んで共に働きたいという方も多いので、楽しく、やりがいをもって働いている姿を外部に発信することが重要だと思います。
渡辺
採用したい人材に対して何が刺さるのか、自社の魅力を分析して情報発信をすることは非常に重要ですね。それが上手くいっている会社は、採用もうまくいっています。ただ、良いところも悪いところも、自社のことは「当たり前」になってしまいますから意外と気付きにくいものです。
私たちは採用のご支援をする際に、採用ターゲットから見た魅力や、改善すべき点を一緒に探していきたいと思っています。エージェントもぜひ巻き込んでいただきたいですね。エージェントにも求職者にもファンになってもらうことが大切だと思います。
細田
確かに、求職者のことや業界の採用動向に精通していらっしゃるエージェントさんをファンにすることができれば、心強いですね。
渡辺
新しい商品・サービスをスピーディーにリリースしていくには、現場の意識のみならず、経営の意思決定のスピードが重要です。貴社の場合、経営トップの方々も人事・組織づくりにもかなり強くコミットしていらっしゃるのでしょうか。
細田
はい。毎週1時間、人事と常勤役員全員が人事や採用に関する会議を行っています。どの部門でどんな人が足りないとか、経営課題からどのような人財が必要だとか、会議では自由に意見を言い合っています。プロジェクトの組織編成がその場で決まることもあります。当社の場合、役職が上位になればなるほど、一人ひとりの社員をしっかり見ている印象です。
渡辺
人的資本経営やHRBPなど、用語自体は浸透してきていますが、まだまだ経営が人事を重要課題と捉え、頻繁にコミュニケーションを取っている日系企業は珍しいですね。
細田
そうですね。また、経営の重要課題や決定事項を毎週水曜日にフィードバックするようにしています。経営会議が水曜日の朝10時から行われるのですが、当日の夕方に、そこで決議されたことや課題について会長もしくは社長自ら、全従業員にオンラインで共有しています。もちろん、人事異動など開示できない情報はありますが、可能な限り最新情報を開示するようにしています。
渡辺
トップが自ら発信するということは、現場への浸透のためにも非常に大きなポイントです。毎週、当日決まった情報をその日のうちに発信するというスピード感も素晴らしいですね。社内に様々な部署がある中で、優秀な人材は他部署の動向を自部門と関連付けて考えることもできるでしょうし、会社の進む方向性や経営陣の考えをリアルタイムで知ることができることは、モチベーションアップにもつながります。
細田
経営のフィードバックはまさに、数年前にエンゲージメントサーベイを実施した時、「経営が考えていることが分からない」という声が非常に多かったことから始まりました。この取り組みを初めてから、「会社の方向性が見えるようになった」「業務の役に立った」「誰に聞いたらいいのか分からないことが分かるようになった」といった声が上がっています。自部署以外の人が何をしているのか分からないと、業務のスピードも落ちますよね。情報開示は、事業のスピーディーな成長も後押しするのだと実感しています。
渡辺
もともと経営と現場との距離がとても近いのですね。
細田
そうですね。上から下までフラットです。会長も社長も密室で仕事をするのではなく、ガラス張りの同じフロアにいますし、私もフリーアドレスの席で毎日場所を変えながら仕事をしています。そういった実際の距離が心理的距離の近さにもつながっていると思います。
渡辺
お話しを伺うと、貴社が銀行であることを忘れそうになります(笑)。銀行として稀有な組織だと思いますが、そもそも貴社の成り立ちは、あおぞら銀行様とGMOインターネットグループ様の共同出資ですよね。銀行ご出身の方も多いのではないでしょうか。
細田
エンジニアは銀行出身の者の方が少ないですが、全体でみると3~4割ほどが銀行出身者ですね。立ち上げ当初は両親会社からの出向者ばかりでしたが、現在では出向者は数名で、ほとんどがGMOあおぞらネット銀行となってから入社したメンバーです。
渡辺
銀行とIT業界、まったく異なるカルチャーの中で育った多様な価値観の方々が混在する組織の中で、新しい事業をスピーディーに立ち上げていくことは容易ではないと思います。コンフリクトはありませんでしたか?
細田
カルチャーギャップはもちろんありました。例えば、メンバーが上司に提出する資料の作り方ひとつとっても、最初から100点満点を目指して時間をかけて作るタイプと6~7割作って上司と一緒に改善していくというスピード重視のタイプもおり、育ってきた業界によって様々なスタイルがあります。ギャップがあれば摩擦もありますが、その中で新しい文化を創っていくことを自分ごととして捉えると、不平不満の前に「まずは動こう」という意識になります。
とにかく、みんなが働きやすいオフィスをつくるにはどうすべきか、どうすれば良い人材が働き続けてくれるか、それを一生懸命考えて動き続けていくうちに、周りに仲間が増えてきたように思います。
渡辺
みんなが働きやすい環境をつくるために考え続けることと、熱意をもってしっかりと情報発信すること、その両輪ですね。また、優秀なDX人材のリテンションのために、何か気を付けていることはありますか?
細田
エンジニアは孤独になりがちですし、優秀な人材は外に目を向けてしまいますから、一人ひとりをケアすることには気を付けています。誰がどんな仕事をしていてどんな結果を残しているか、どういう仕事の進め方をしているのか、一人ひとりの特徴を知っていると、その人にとって面白そうな仕事が出てきた時に、すぐにアサインすることができます。
そして、巻き込むことが大事だと思います。仕事は様々な人と一緒に達成させた方が充実感を味わえると思っています。中には、人に声を掛けるのを躊躇ったり、距離を置いたりする人もいますが、私は少し強引にでもコミュニケーションを取って輪に入ってもらっています。
渡辺
社員一人ひとりの能力を活かせるよう、経営陣がしっかりと現場に目を向け、積極的にかかわっていらっしゃるのですね。DX人材の確保に各社苦心する中で、多様な価値観がある中での組織づくりや、スピーディーな意思決定のための仕組みについてもお伺いでき、非常に興味深かったです。本日はありがとうございました!
ネット銀行として独自の立ち位置を築き、顧客起点とスピードに徹底的にこだわってプロダクトを開発しているGMOあおぞらネット銀行の細田様との対談から、採用・人材配置・組織づくりに至るまで様々な施策を伺いました。「新しいことに慎重」という銀行のイメージを覆し優秀な人材を惹きつけるために、どのような情報発信を行っているのか。そしてDX人材が活躍し、スピード感のある事業成長を実現するには、どのような組織体制をつくるべきか。DX人材の採用が容易ではないからこそ、様々な工夫と試行錯誤されている内容が伺えた対談でした。
「DX人材」と一口にいっても、その企業によって求める人物像は異なります。まずは自社にとってどのような人材が必要なのか、そして、その人材にとって自社はどのように捉えられているのか、客観的な視点で分析してみることをおすすめします。