公開日:2021/11/22
変更日:2024/08/29
近年、経済産業省が積極的に推進を後押しするデジタルトランスフォーメーション(DX)は、業種・規模にかかわらず多くの企業が取り組み始め、社会全体に大きな変革を起こすビッグウェーブとして期待されています。
しかし、その取り組みも的確なマネジメントが成されないと、「絵に描いた餅」と化してしまいます。
この記事では、DXにあたりマネジメントはどうあるべきか、また、人事部門の担当者は何をすべきかを、課題と解決策を通して解説していきます。
本章では、改めてDXの定義から、推進により期待される効果、および取り組みの現状と課題を解説します。
デジタルトランスフォーメーション(以下DX)は、スウェーデンのエリック・ストルターマンが提唱した概念で、「デジタル技術を浸透させることが人々の生活や社会全体を良好な方向に変えていく」、つまり、業務プロセスや顧客対応手法を、デジタル技術を駆使して変革することで、結果的に社会レベルで変革を実現することを指しています。
また、経済産業省が2019年7月に発表した『「DX推進指標」とそのガイダンス』では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
①生産性の向上が見込める
業務プロセスのデジタル化によって業務の仕組みが効率化・省力化され、労働生産性の向上が見込めます。また、データ連携や情報共有がデジタル化のプロセスの中で実施されるため、組織の柔軟性や機動力も上がります。
②消費行動の変化に応じた新たな展開が生まれる
AI、IoT、ビッグデータ、5G、ブロックチェーンなどの技術活用が進み、製品・サービスの高度なデジタル化も実現します。それに伴い消費行動も変化し、それに対応したビジネスモデルが確立され新しい商品が生み出されます。
DXの成功事例と現状
DXに早くから取り組み、成果をあげている例を紹介します。
①伊予銀行
・タブレットによる対話式手続きシステムの設置
お客さまの窓口待ち時間が大幅に削減され、さらに行員の事務作業を半減させました。
②マクドナルド
・テイクアウトオーダーのスマホによる事前予約/テーブルデリバリー
お客さまの店舗待ち時間の減少、レジでのタイプ時間の削減、キャッシュレス決済による対応時間の削減を実現しました。
上述のように一部の企業において成功例はあるものの、DXを単にペーパーワークから電子ファイルに置き換えるだけといった、業務の一部をデジタル化するだけで完結と思い込んでいる例も多く見られます。
DX推進部門を設置し、部分的な動きが出てきてはいるものの、全社で掲げている戦略的なミッションに昇華できていないケースなど、DXを正しくマネジメントし成果をあげている企業はまだ少数というのが現状です。
①DXのロードマップが不明
経営者のITリテラシー不足により、的確なマネジメントが行われず、DXを推進しようにも、企業として「何を実現したい」のか明確になっていなければ意味がありません。まずは、明確なロードマップ(設計図)が必要です。
②変化を求めない企業文化の存在
現時点で、安定的で堅実な事業を運営している企業は、将来のビジネスモデルを大きく変革するDXに消極的なケースが見られます。とくに経営層に、「今のままでもうまくやっている」「変化の必要性を感じない」という現状肯定、「ITやデジタル化についていけない」「自分の立場や仕事を失うかもしれない」という将来不安による拒否感が強い傾向があります。
③2025年の崖
メインフレームやオフコンなどを使った従来の基幹システムは柔軟性がなく、さらに肥大化、複雑化、ブラックボックス化しています。その保守・運用のため貴重なIT人材を浪費しているうえに、DX移行の準備がほとんどできておらず、技術者も不足しているため移行に乗り遅れる可能性があります。
本章では、DX推進にあたりマネジメントおよび人事部門の担当者が取り組むべきことを紹介します。
本項では、DX推進における経営層や人事部門が取り組むべき重要なポイントを解説します。
自社がDXで、「どのような姿になりたいのか」、「何を実現したいのか」の方向性を示し、そのロードマップを明確にしましょう。
下図ではゴールの「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に到達するまでの過程(横軸)で何を実現するのかを、取り組み領域(縦軸)に分けて整理しています。
※出典:経済産業省・デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会
DXを推進するためには、DXの戦略に基づき、組織のボトルネックを可視化して、継続的に解消し組織を再構築することが必要です。以下に経営層および人事部門が取り組むべき項目を挙げます。
①DX変革の必要性の共通理解 DX化を担う関係者(経営陣・業務部門・IT部門)間の共通理解は必須です。とくにリードする経営層の意識改革を行い、役割を明確化しましょう。
②「変化する価値」を全社で共有 既存のやり方を壊すことに抵抗を感じるのは人間の本能です。「変化することが価値である」ことを全社で共有すれば、変化を歓迎する空気を醸成できます。
③自律的な組織コンピテンシーを育む 会社の方向性に納得すれば、社員が自らの頭で考え始め、行動も変わってきます。DX化の推進活動をDX(IT)部門に任せきりにしないことも大切です。
④多様性と柔軟な組織運営 異業種からの人材採用や社外とのコラボレーション、顧客との共創も積極的に行いましょう。視野を広く持ち、柔軟な姿勢で取り組むことが大切です。
⑤人材の確保と育成 「2025年の崖」といわれるように、圧倒的なIT人材不足が予想され、採用も厳しい状況が続いています。採用戦略をしっかり立てて着実・確実な採用を行いましょう。そもそもDX推進人材の要件定義が曖昧な企業もまだまだあるようです。まずは課題整理から行い、適切な人材のペルソナ設計を行いましょう。並行して自社内でのIT人材育成に注力することも大切です。こちらも同様に育成するにも人材要件が無ければ進められません。社内に育成を担える人材がいないことも多く、外部リソースによる育成プログラムやアプリなどで全社の底上げを行っている企業もあります。
⑥DX評価制度の構築 DX化にチャレンジする社員のモチベーションを向上させるためにも評価制度の検討は必要です。従来の評価制度を適用するのではなく、異なる評価の仕組みを構築しましょう。
プロダクトマネジメントの考え方である、『「誰の」「何の」課題を、「どのようにして」「どういう世界を実現」するのか』は、DX推進に当てはめることができると考えます。 それをフレームワークに並べると、次のようになります。
プロダクトマネジメント 4階層の概念図
この各階層で仮説と検証を行いつつアジャイル型で進めることが大切です。
経産省が後押しし業種・業界に関わらず取り組み始めたDXですが、取り組み始めたがうまくいかない、そもそも何をどうするのか分からないといった企業が多いのが現状のようです。 この記事では、いま一度DXの定義から紐解き、現状と課題の抽出(§1)、DX推進にあたってマネジメントおよび人事部門担当者が行うべきこと(§2)を解説してきました。 この記事を参考にDXがスムーズに進行されることを願っています。
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この記事を書いた人
大学を卒業後、関西の広告代理店へ入社し、営業として求人媒体の広告販売や雑誌メディアの広告販売、SPツールの企画、提案、制作進行管理を4年ほど経験。クライアントは地元関西の企業や飲食店、美容室などがメインでほぼ新規での営業を経験。その後、クリーク・アンド・リバー社へ転職し、13年...