公開日:2022/10/06
変更日:2024/08/29
さまざまなキーワードとテクノロジーを結び付けた「X-Tech(クロステック)」のなかでも近年注目度が高く、成長が見込まれているのが食とテクノロジーが結びついた「FoodTech(フードテック)」です。
フードテック業界では、最先端のテクノロジーを活用して食糧の需給問題やフードビジネス、生産・流通分野における人材不足などの課題を解決するサービスが続々と登場しています。
この記事では、時代の先端をいくフードテックが注目される背景、市場の動向、製品・サービスの実例、活躍できそうな人材などを紹介していきます。
本章ではフードテックとは何なのか、またフードテックが注目される背景を解説します。
「FoodTech(フードテック)」は「Food(フード)」と「Technology(テクノロジー)」を結び付けた造語です。世界では今、発展途上国を中心とした人口増加や地球温暖化による気候変動により、地球規模での食料不足や飢餓が問題視されています。一方、先進国ではフードロスや、一次産業およびフードビジネスの人材不足など、「食」に関わるさまざまな課題が浮き彫りになっています。
それらの解決に期待されているのがフードテックです。欧米では2015年頃からフードテックに関わる企業がビジネス展開をはじめ、日本では2018年頃から関連ビジネスが出現し始めています。三菱総合研究所が発表(2018年)した「世界のフードビジネスの市場規模」は2030年に1400兆円に上るとされています。
また、2020年10月には農林水産省がフードテック領域への研究開発・投資を促進するため「フードテック官民協議会」を発足するなど、フードテックは企業のみならず政府も注目する領域となっています。
①地球規模での食料不足の解決
世界人口の増加、温暖化に伴う異常気象による農作物の不作などで、需要に供給が追い付かない状態が続いています。フードテックは代替肉の開発、長期間の保存が可能な食品の開発および農業の生産量増加、生産性向上に寄与すると期待されています。
②フードロスの削減とSDGsの達成
飢餓に苦しむ人がいる一方、大都市圏ではフードロス(食品廃棄)の増加が問題視されています。日本では年間522万トン(2020年度・農林水産省および環境省推計)ものフードロスが発生しているといわれており、2019年5月には「フードロス削減推進法」が成立し各事業者が対応を進めています。
また、SDGs目標17項目のひとつに「飢餓や貧困の撲滅」が含まれています。フードテック技術はその解決に欠かせない存在と考えられています。
③人間の健康に関する問題意識の向上
ライフスタイルの多様化や外食・中食の発達により、適正なカロリー摂取を維持することが難しくなりました。それに伴い、摂取カロリーの増加や栄養バランスの偏りから生活習慣病のリスクが高まっています。フードテックにより、「おいしさ」「食べ応え」を維持しつつ、低カロリーで豊富な栄養素を持つ食品の開発が期待されています。
④安全な「食」へのニーズの高まり
産地偽装や原材料の虚偽表示が社会問題となっている昨今、食の安全性を意識する消費者が増加。また、トレーサビリティ(生産から消費、廃棄までを追跡)などの技術が注目されています。
⑤人手不足の解消
農業・酪農・漁業分野では生産者の高齢化が進み、食品加工工場や流通、外食産業では慢性的な人員不足で経営が困難になっています。そのため、効率よく生産や事業運営ができるフードテックに期待がかけられています。
本章では、フードテックに関わりが深い産業領域および具体例を紹介します。
①代替肉や昆虫食の開発
大豆など植物由来の材料で作られた代替肉や、コオロギなどの昆虫を使用してプロテインやスムージーを製造する昆虫食の開発および実用化が進んでいます。
②健康食品の開発
1品で1日に必要な栄養素をすべて含む完全食や、品種改良によって栄養価を高めた農作物の開発が進められています。
③生産工程の自動化・効率化
IoT・センシングによる温度・気候・日照量の管理、スマート農業またはAgriTech(アグリテック)による農産物生産が進んでいます。
①分子ガストロミー
食品の調理を分子単位まで徹底して細分化するものです。
②トレーサビリティ
ICTによるサプライチェーンの改善やブロックチェーンを利用したトレーサビリティの導入が産地偽装を防止します。
①フードシェアリングサービス
飲食店から発生する「廃棄」を格安もしくは無料でシェアするシステムです。大都市圏を中心に広がっています。
②OMO(Online Merges with Offline)
オンラインとリアルをつなげるマーケティング概念です。スマホアプリからメニュー選択、注文、決裁、配送まで提供するデリバリー(UberEATSなど)が代表例に挙げられます。
③フードロボット
お弁当のおかずをつくり、食材のピッキング・盛り付けも行うロボット。人手不足や省力化にも貢献します。
本章では主なフードテック参入企業、およびその事例を紹介します。
①株式会社フーディソン
「世界の食をもっと楽しく」をミッションに、生産流通のプラットフォーム構築を主軸に展開しています。中小飲食店向けの鮮魚注文Webサービス「魚ポチ」は、卸売市場の在庫データだけでなく、当日に産地で水揚げされた魚のデータをDBとして持ち、ユーザー(飲食店)は欲しい量の鮮魚をPCやスマホで即座に注文できます。
また、産地直送の魚を扱うセレクトショップ「sakana bacca」を都内に4店舗展開。
さらに、鮮魚加工技術に特化した人材紹介・派遣の「さかな人材バンク」を展開しています。
②株式会社Showcase Gig
「テクノロジーで日常の消費体験を変える」をミッションに、企業とユーザーの接点(チャネル)を連携させるオムニチャネルや、モバイル決済分野に多くの実績を持ちます。
モバイルプラットフォーム「O:der」は、消費者がスマホで注文・決済をすませ、店舗ですぐに商品が受け取れるシステムであり、待ち時間がいらない、好きな時間に取りに行けるメリットがあります。また、店舗側は混雑時の商品提供がスムーズになり、事前に需要が分かるため食品ロスを削減できるというメリットがあります。
③UberEATS
スマホの位置情報を活用して、配達員をアウトソーシングしたところが大きな特長です。
飲食店は配達のマンパワーを削減でき、配達員は空いた時間を活用できるメリットがあります。
④株式会社ファームノート
「世界の農業の頭脳を創る」を経営理念に、酪農・畜産向けアプリ、牧場内の牛群管理アプリ「Farmnote」を提供。牛の首にセンサーを取り付けることで各個体の発情兆候や分娩などの情報をPCで一括管理できるシステムを開発。出荷日や出荷先の情報管理も可能で、各種作業の効率化を実現しました。
⑤ユーグレナ
ミドリムシを使った商品開発を手掛けています。ミドリムシは、動物性の栄養素と植物性の栄養素の二つを併せ持つ唯一無二の食材として、世界の食料不足への貢献が期待されています。同社はミドリムシから燃料をつくるバイオ燃料事業にも取り組み、世界の燃料問題解決にも貢献しています。
本章では、フードテック関連企業が求める人材に必要なスキルについて紹介します。
①自社サービス開発を行うフルスタッフ型エンジニア
フードテック企業は増加していますが、その多くがITベンチャー・スタートアップです。少数精鋭でサービス開発・運営を行っているケースが多く、ゆえに1人もしくは少人数での開発経験を持つ、フルスタッフ型のエンジニアが好まれます。
②Webサービス、アプリ開発の経験
フードテックに関するサービスは、Webサービス、スマホ向けアプリを介して活用されることが多く、この領域で開発経験のあるエンジニアが重宝されます。
Python、Ruby、Java、C言語は必須で、自社でアプリ開発も行っている企業なら、Java、Kotlin、Swiftを扱えると有利です。
③フードテックの活用領域や理念に関心がある
フードテックは社会問題の解決手段として期待されています。
ベンチャー・スタートアップ企業が多いため、ビジネスモデルも発展途上であり、アイデアや企画力が試されます。優れたアイデア・企画を生み出すために、理念を理解し「何が問題なのか」「どう解決していくべきか」を明確にする分析・構想力、さらにフードテックで何を成し遂げたいのかという自身のビジョンが必要です。
④テクノロジーに関する豊富な知見
AIやIoT技術はもちろんのこと、セキュリティ技術やデータ関連技術も必要とされます。
社会課題を解決するサービスに携わりたいというエンジニアにおすすめです。
この記事では、フードテックとは何か?その注目される背景、フードテックに関連する産業領域、主な参入企業・製品事例、フードテックで求められる人材などを紹介してきました。
最先端のテクノロジーを活用して新しい食品や調理方法を開発し、食に関する環境を変えるなど、IT・農業・ロボティクスをはじめとしてフードテックの関連分野は広がっています。SDGsにも深く関係があることがお分かりいただけたと思います。
社会が持続的に成長していくための「キーテクノロジー」として今後に期待がかかるフードテック。本記事を通じて、フードテックが世の中に与える影響や求められる人材の条件など理解を深めていただければ幸いです。