公開日:2022/01/24
変更日:2024/08/29
ITやデジタルテクノロジーの進化によって人々の生活が変わっていくなか、企業においてもDX推進に対応できるかどうかが、今後の企業競争力を左右すると言われています。
そのDX推進を担うデジタル人材がいま、業界や業種を問わず不足しており採用市場における大きな問題となっています。
今回は、「CSDX VISION」を掲げ、デジタル時代を先導する企業を目指す株式会社クレディセゾン(以下クレディセゾン)にあって、デジタル人材の採用・育成に独自の手法で取り組み、成功を収めている小野様と、クリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)で、デジタル人材の採用において多くの企業を支援してきた執行役員 渡辺の対談企画を実施。
前編では、企業間の争奪戦が激しく困難を極めるデジタル人材の採用市場の状況、また、採用現場で人事部門にはどのようなことが求められるのかを語っていただきました。
目次
小野 和俊氏(写真右)
株式会社クレディセゾン 取締役(兼)専務執行役員 CTO(兼)CIO 全社DX戦略推進
新卒でサン・マイクロシステムズに入社。24歳でエンタープライズ向けデータ連携プラットフォーム「データスパイダー」を開発する株式会社アプレッソを起業。販売代理店だったセゾン情報システムズと資本業務提携し、2019年からはを機に、クレディセゾンにてCTOを務める。デジタル改革・DX推進を担う。2021年より現職。
渡辺 和宏(写真左)
株式会社クリーク・アンド・リバー社 執行役員
クリエイター・エージェンシー・グループ マネージャー
2002年株式会社クリーク・アンド・リバー社入社。映像分野で活躍する派遣就業クリエイターを担当、また制作受託の営業に従事。その後2005年から人材紹介事業を担当。
渡辺
まずは簡単に自己紹介をしましょう。
私は2002年の入社以来、クリエイティブ業界で活躍するプロフェッショナル人材のために、最も輝ける環境で仕事をしてもらうためのサポート、転職支援に携わってきました。C&R社は、当初はデザイナーなどのクリエイター専門の人材紹介エージェンシーでしたが、最近は医師や建築士、会計士といったプロフェッショナル人材についてもご支援しており、現在、私自身はクリエイターと料理人の転職支援チームの責任者を担当しています。
小野さんはどんな経緯で現在に至っていらっしゃるのでしょう。
小野
新卒時は先端IT企業が集まるアメリカ・シリコンバレーで仕事をしたいと考えていて、外資系のサン・マイクロシステムズの日本法人に入社しました。新人研修が半年くらいあって、たまたま本社の方で自分の専攻した技術を活かせる仕事があるということで、先輩や上司の後押しもあり渡米して、そのままアメリカに居ようと思っていました。
ところが、いまでいうエンジェル投資家から声をかけていただいて「技術がありベンチャーの社長をやってくれる人を探している」と。数回会った後「君が気に入ったので、個人資産で10億円用意するから、ぜひお願いしたい」と。そこまで期待してくれるならと、24歳で起業したのが、エンタープライズ向けのデータ連携プラットフォーム「データスパイダー」を開発・販売するアプレッソです。
会社は順調だったのですが、代理店契約していたセゾン情報システムズが、より踏み込んだ関係をということで、資本業務提携を打診してきて、我々もより多くのお客さまに使っていただけるという期待のもとクレディセゾングループの一員となりました。
アプレッソの代表と兼務してセゾン情報システムズの経営にもタッチしていたのですが、大株主のクレディセゾンがデジタル改革・DXを推進するにあたり、その責任者として私に白羽の矢が立ち、2019年3月から現職に就いています。
渡辺
エンジニアとしても優秀であり、経営的センスも持ち合わせていらっしゃれば、クレディセゾンが放っておくわけないという感じですね。
さて、本題のデジタル人材の争奪戦についてですが、少し現在の市況をお話しておきましょう。企業のエンジニアの採用意欲はここ10年くらい高止まりしていて、有効求人倍率もどんどん高くなっています。まさに争奪戦の様相です。しかし、それゆえに少し変わってきたと思うこともあります。以前は高望みというか、ハイレベルの経験者でないと、我々エージェントにフィーを払ってまで採用するつもりはないという企業ばかりだったのが、いまはIT系を学んできたなら未経験でもいいと、ハードルを下げる企業が増えてきている。
そうなると今後は育成というのがキーワードになるし、学生の段階からこの業界に目を向けてもらう、草の根的な採用広報に力を注がなくてはならない時代になっていると感じています。クレディセゾンというか小野さんは、デジタル人材採用になにか特別な手法を施されていますか。
小野
クレディセゾンでは2024年までにデジタル人材を1,000人にする計画を打ち出しています。いまはまだ2年目ですが、すでに180人まで達しています。今年2021年の4月からはデジタル人材の採用は人事部と連携して一緒に動いているのですが、私がクレディセゾンに来た2019年3月から21年3月までの2年間は、私の個人ブログ経由だけで採用していました。
これにはベンチャー経営していたときの成功体験があって、Twitterが出始めたばかりの2008年に、ノリと勢いで「社員募集」と書いたら、ドンと50人くらい応募が来たんです。Twitterで社員を募集すること自体、日本でまだやっている会社がほとんどなかったと思うのですが、それ以来、私の採用手法は基本的には個人ブログが中心で、C&R社さんのようなエージェントやメディアには何の貢献もしていない(笑)。
渡辺
それで採用できているのなら、出る幕なくていいんですよ(笑)。
小野
しかし、個人ブログの採用だけでは、デジタル人材1,000人体制にもっていくのは難しいので、それをフェーズ1として、いま並行してフェーズ2の社内公募を走らせています。クレディセゾンでは、人事異動の中の一つとして社内公募を積極的に実施しており、2020年の夏に人事部に相談して、これまで総合職として仕事をしていた人にゼロからプログラミングやデータ分析を学んでもらいデジタル人材に育成する社内公募をその10月に第1弾を実行しました。現職種や年齢制限はなし、手を挙げてくれた社員を面談してOKとなったらDX推進部門に異動してもらいます。
外部から既にエンジニアなどIT関連で活躍していた人を採用するのを「Layer1コアデジタル人材」と呼ぶのに対して、社内公募で採用した人は「Layer2ビジネスデジタル人材」と呼んでいます。第1弾では約40人、今年第2弾を募集したのですが約90人の応募があり、昨年は12人、今年は22人が異動しました。総合職の畑違いの人がデジタルスキルをプラスで身につけDX推進に貢献していくハイブリッド作戦ですね。
渡辺
非常に理想的だと思います。経験的にビジネスのことも分かっている。さらに社内のことも分かっているうえにプログラミングなどのIT知識が積み上げられるわけで、新卒といった未経験者を採用して育成することと比較して数段効率が良いと言えますね。でも、失礼な言い方ですが、使える人材に育つんですか?
小野
その点はよく質問されるのですが、ちゃんと育つと確信していますよ。それにITの知識・技術レベルは新卒や第二新卒と同等なのに、いままでと同様の給料払って成り立つの? といった指摘もいただくのですが、まったく問題ないですよ。
ビジネスデジタル人材は、いままでの部署での経験や人的ネットワークをもった状態でシステムやデジタルを学ぶわけですね。すると、本当に何が必要なのかってことを見誤らないし、現場のことが分かってなくて要件定義がかけ離れたものになるといった事故は起きないんです。
加えて、各部署のエース級が手をあげてくるわけですからモチベーションが違うし、みんな輝いて楽しそうなんですね。すると前の部署の同期や上司が「自分も頑張ろう」となる。さらにかつての人的ネットワークを使って、新しい何かが動くこともある。ビジネスデジタル人材というのは、単にスキルのある人を集めるのではなく、社員の心の動きという意味でも、すごく意義のある試みだと思いますね。
渡辺
なるほど、デジタル人材の社内公募はDX推進要員の育成だけでなく、組織の活性化にも一役かっているということなのですね。個人ブログでの採用にちょっと戻りますが、この手法は小野さんだから可能だったということになりませんか?
小野
私の場合、たまたまブログを書いていて、それの読者がいてという流れでうまくいきましたけど、別にブログじゃなくても、別のメディア、その人なりのもっているチャネルがいろいろあると思います。要は採用する側のトップや中心人物が、直接自分の言葉で伝えることが大事だと思うんですね。
求人するときによくあるのは、求人したい部署が人事に採用要件を言って、人事は社内で決まったテンプレートで求人票つくって人材エージェントに渡して終わり。これだとコミュニケーションの壁がいくつかできるわけですよね。メッセージ性もないし、あったとしても薄まったり曲解されたりする。だから、たとえば社長が採用意識高ければ、社長の言葉で直接やったらどうですかと。社長がいきなりフェイスブックメッセンジャーといったSNSで送るってすごくインパクトあるでしょう。
エージェントを使う場合も、人事を通してもいいんだけれど、社長や採用現場のトップと直接話す機会をつくることが大切だと思いますね。
渡辺
確かに我々エージェントが現場トップや経営陣と直接ヒアリングできるのは望むところです。しかし残念ながら、採用に力を入れていると言われる企業でも、採用要件を直接経営者にヒアリングできる会社は少ないのが現実です。
なかには、採用面接は必ず自分の目を通して最終判断を下すとおっしゃりながら、その面接日程は1か月後とか。これでは候補者のテンションは下がる一方で、気持ちは他社にいってしまいます。力を入れていると言いながら、けっこう日々の業務を優先する経営者が多いのは残念です。経営者が直接声をかけるかは別としても、最終判断のステージになったら、他の業務を止めてでも優先して時間をつくるくらいのことをしないといけませんね。
小野
デジタル人材に限ったことではなく同感です。早く人材を入れたいなんて言っているけれど、結局「本気じゃないんだろうな」みたいなところが透けて見えてしまう。
渡辺
採用力のあるなしはそういったところで差が出ると強く感じます。
後編:DX推進のカギ『クセのある、とがったデジタル人材を、いかに採用し定着させていくか』。~クレディセゾン小野氏×C&R社渡辺 対談~