公開日:2021/10/04
変更日:2024/08/29
ITやデジタルテクノロジーの進化によって人々の生活が変わっていくなか、企業においてもDX推進に対応できるかどうかが、今後の企業競争力を左右すると言われています。
そのDX推進を担う人材がいま、業界や業種を問わず不足しており、企業にとって大きな課題となっています。
この記事では、DX推進においてDX人材をどう活かしていけばよいのか、困難を極めるDX人材の採用、自社育成について、その課題・対応策などを解説します。
本章では、DXを推進するにあたり企業が目指すべき方向性、推進における課題、推進のカギを握るDX人材に求められることを解説します。
一般的にDX(デジタルトランスフォーメーション)は「ITの活用で社会生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という意味で捉えられています。これを企業活動に置き換えると「ITの活用によって、組織やビジネスモデルにイノベーションを起こすこと」となります。DX推進に重要なのは、30年後まで見据え、どのような未来が来ても対応できる企業になるため、あらゆる側面から事業の可能性を検討することです。
そのプロセスで重要なのが、具体的なイノベーションを想像できる人、実現可能な手段を決定・実行できるDX人材が社内にいるかどうかです。DX推進には、まずDX人材を社内に整えること、さらに会社全体のミッションとして全従業員がDX推進を意識し、「企業カルチャー」として定着するまでに昇華させることが大切です。
経済産業省が2019年3月に発表した「IT人材需給に関する調査」では、IT人材の需給バランスの悪い状況が示されています。試算では、少子高齢化のなかでも、新卒におけるIT業界への就職者は2030年まで増加傾向になると予想され、2030年のIT人材数は2018年に比較して、10.2万人増える見込みです。しかし、需要の増加はさらに大きく、2030年には需要の伸びを低く見積もっても16.4万人、高い場合78.8万人のIT人材不足が見込まれています。
企業のDX推進は、将来的なビジネスモデルや組織のイノベーションを目指します。その対象は、単にITエンジニアの守備範囲だけにとどまらないとはいえ、IT人材の不足はDX推進の最大の課題となることは明らかです。
さらに、三菱総合研究所が行ったアンケートでは、「DX推進上の課題」として次の3項目が上位を占めています。
1.DX全体の工程を管理する人材が不足している(55.3%)
2.ビジネス案を実際に形にする人材が不足している(47.4%)
3.十分な収益性を確保できるビジネスモデルが描けない(44.7%)
世界にどれほど優れたIT技術が存在していても、それを活用してビジネスモデルを描き、具体化できる人材、実装までの工程管理のできる人材がいなければ、DX推進は絵に描いた餅になるといえるのです。
前項で課題として挙げられた人材不足の内容で、「DX全体の工程を管理する人材」「ビジネス案を実際に形にする人材」とありましたが、DX人材に求められる適性は、その2つを可能にする人材だといえます。
IT専門分野に精通し、さまざまな先端技術を活用するスキルがあることは絶対条件ですが、そのうえで「データの重要性を理解し、それを用いて目標達成までの道筋を立てられる」「自身の知識とスキルで、いままでにないものを創出する」という、ビジネスパーソンとしての広い視野をもつことが求められます。
いわゆるプロジェクトマネジメント力、リーダーシップ、コミュニケーション能力も必要とされます。また、DXによって構築されるイノベーションを想像し、チャレンジすることを楽しめるマインドセットを持つ人材がDX人材に適性があるといえるでしょう。 しかし、こうしたスキルを1人に求めることは困難です。DXは多様なスキルをチームとして結集し、全社のミッションとして取り組むべきものといえます。
次項ではDX推進に必要となるDX人材の職種を紹介します。
独立行政法人情報処理推進機構は、「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」のなかでDX推進に必要となるDX人材の職種を次のように示しています。
1.プロデューサー:DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格
2.ビジネスデザイナー:DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進を担う
3.アーキテクト:DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる
4.データサイエンティスト・AIエンジニア:DXに関するデジタル技術(AI、IoT等)やデータ解析に精通している
5.UXデザイナー:DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当
6.エンジニア・プログラマー:上記以外にデジタルシステムの実装やインフラ構築を担う
このように、DX推進にはプロセスの上流から下流まで多様な職種が必要です。DXが将来のイノベーション創出を担う概念という点からも、多様な職種でチームを組むことが重要であることが分かります。
本章では、DX人材不足を補うために企業が行う、採用と自社育成について、また育成におけるポイントを、それぞれの課題や対応策を含めて解説します。
DX人材は、スキルを持つ人数自体が不足しているうえ、企業間の争奪戦が激しく、採用は困難を極めています。
20年後、30年後を見据え、ITスキルの高い若手人材の獲得がより重要性が増してくるなか、採用の成果を出すためのポイントを以下に挙げます。
1.採用ターゲット(求めるDX人材像)を明確にする
・DXの目的は企業ごとに異なります。あいまいな定義では適切な人材を採用できません。改めて自社のDX課題を整理し、求める専門スキルやノウハウを検討し、採用すべき人材像を絞り込むことが大切です。
2.具体的な仕事内容、業務範囲、期待・役割をしっかり提示し、働くイメージを醸成
・自社の事業特性、仕事のやりがいといった魅力・強みの情報発信が不足していると応募に至りません。現状課題、目指す方向性、期待する役割など具体的な情報を提示すれば、ニーズに合った意欲の高い人材をひきよせることが可能です。
3.「フレックス制」「テレワーク制」など勤務形態、職場環境をIT業界の常識に合わせる
・IT業界では、「フレックス制度」「テレワーク制度」「私服勤務」が一般的になっています。最近は「副業解禁」を導入する企業も増えています。こうした柔軟な勤務形態を導入していることがDX人材採用には有利に働くでしょう。
4.報酬(給与)体系・制度を見直す
・IT業界では、DX人材の年収は比較的高くなっています。DX人材に対して、独自の給与体系や報酬制度を設けることができれば理想的です。
5.オンライン面接を活用するなどスピーディで効率的な選考を
・DX人材の採用競争は激化しているため、時間をかけすぎると他社に先を越される要因となります。応募者は最初に内定を出された企業に入社する傾向にあるため、2週間程度で選考を完了する、またオンライン面接を活用するなどスピーディで効率的な選考を行いましょう。
6.面接官のITリテラシー向上も含め、選考基準の標準化と共有を
・DX人材の採用では、期待する役割や必要なスキルを明確にし、それに沿って合否判断できるようにしましょう。主観的な判断になりがちな対人折衝力や主体性、協調性といったビジネススキルを含め、面接は同じ選考基準を面接官で共有する必要があります。
面接官のDXに関する知識が不足していると、質疑応答や合否に不信感を抱かせる場合もあります。応募者の立場に立った、志向に合わせた質問や説明を心がけ、期待値を具体的に伝えることが効果的です。
7. アウトソーシングの活用
社内で補えないスキルが必要になる場合、社外のエキスパート人材の採用も検討してみましょう。エキスパート人材を迎え入れることで、実務面だけでなく、その下で自社社員が学び、経験を積みながらスキルを磨く、というメリットも期待できます。
次にDX人材の育成ポイントを紹介します。
1.育成するターゲットを定める
・まず、社内でリソースする場合、リーダーシップやコミュニケーション能力に長けた人材を優先して選びましょう。技術力は後からでも身につきます。好奇心やチャレンジ精神旺盛な人、DX推進によって実現させたい世界観を具体的にイメージできる人が適切です。
2.DX人材育成の取り組みを可視化する
・会社全体のミッション、全従業員がDX推進を意識できるように、進捗の可視化をおこないます。全社的なITリテラシー向上も期待できます。
3.必要なスキルを学べる環境を整える
・自主的に意欲をもって学べるよう、学習環境の整備や費用面のサポート、資格取得者への表彰制度やインセンティブ制度を設けるなど動機づけが大切です。
4.OJTや社外研修などリアルな経験をさせる
・社内の座学に加え、社外研修など実践教育も有効です。リアルな経験を通し、社内外の多種多様な人材とつながることで、応用力と適応力が身につきます。
5.若手に主体性を持たせる
・若手に当事者意識を持たせることで、従来にない発想で生産性がアップする可能性があります。
6.体系的な評価指標をつくる
・業務の性質上、評価が難しい部分はありますが、昇給・昇格の指標や査定項目の策定および周知が必要です。
この記事では、DX推進が今後の企業成長のカギを握り、それを担うDX人材の重要性、また、DX人材の採用・自社育成におけるポイントを解説してきました。
DX人材の確保は今後ますます困難になっていくと予測されます。多くの企業でDX人材の育成に向けた取り組みはすでにはじまっています。この記事がDX推進およびDX人材の採用・育成に関する取り組みの一助になれば幸いです。
この記事を書いた人
大学を卒業後、関西の広告代理店へ入社し、営業として求人媒体の広告販売や雑誌メディアの広告販売、SPツールの企画、提案、制作進行管理を4年ほど経験。クライアントは地元関西の企業や飲食店、美容室などがメインでほぼ新規での営業を経験。その後、クリーク・アンド・リバー社へ転職し、13年...